元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「イフゲニア」

2020-03-01 06:30:20 | 映画の感想(あ行)
 (原題:Iphigenie )77年ギリシア作品。古代ギリシアの悲劇作家エウリピデスの「アウリスのイフゲニア」を映画化したもので、マイケル・カコヤニス監督作としては「エレクトラ」(61年)「トロイアの女」(71年)と並んで三部作を形成するとのことだ。私は前2作は観ていないが、本作だけでも十分に鑑賞する価値のある秀作だと思う。

 紀元前1200年頃、アルゴス王アガメムノンを総大将とするギリシア連合軍がトロイア征伐のためアウリスの浜に集結する。だが、風が何日も吹かず、1000隻以上の軍艦はエーゲ海に出撃出来ない。女神アルテミスの神託によると、アガメムノンの長女イフゲニアを生贄として捧げれば風が吹くという。そこでアガメムノンはアキレウスの嫁にすると嘘をついてイフゲニアを呼び寄せる。娘に付いてきた王の妻クリュタイムネストラは真相を知り、夫に対して激烈に抗議する。



 この映画の主題は、言うまでもなく反戦だ。そもそもトロイア戦争は、アガメムノンの弟メネラオスがトロイの王子パリスに妻ヘレネを奪われたことが発端になっている。そんなくだらない理由でミュケーナイを中心とするギリシア連合軍は戦争を仕掛け、勝利はしたが大きな損害も被った。

 さらにはイフゲニアをはじめ身内の者まで理不尽な運命を強いられ、アガメムノンも後に悲惨な最期を遂げている。67年から74年にかけて、ギリシアの軍事政権下でアメリカに亡命しなければならなかったカコヤニスの、国際社会に対するルサンチマンを投影したものと言って良いのかもしれない。

 この映画に出てくる男たちは、アキレウスを除けば皆吹けば飛ぶようなプライドにしがみつき、周囲の犠牲などまるで関知していない俗物として扱われる。対して女たちは美しく堂々としていて、精神的な気高さにあふれている。特にクリュタイムネストラの凛とした言動には感動を禁じ得ない。演じるイレーネ・パパスとしても、代表作の一つであろう。

 イフゲニアに扮するタチアナ・パパモスクーのピュアで透明感に満ちた佇まいにも、大いに感じ入った。カコヤニスの演出はまさに横綱相撲で、史劇の重々しさと人間ドラマの奥深さを十二分に表現している。展開にも冗長な部分は見当たらない。ジョルゴス・アルヴァニティスによる撮影とミキス・テオドラキスの音楽も言うこと無しだ。

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