元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

マイケル・クライトン「恐怖の存在」

2021-07-04 06:18:07 | 読書感想文
 初版発行は2004年。著者は「ジュラシック・パーク」や「ディスクロージャー」などで知られるが、本作もスケールの大きなアドベンチャー物として評判になったらしい。ただし個人的な感想としては、冒険小説としては大したことがないと思う。少なくとも「ジュラシック・パーク」や「アンドロメダ病原体」には及ばない。しかし、一種の啓蒙書としては大いに価値がある。その意味では、読んで損の無い本だ。

 2003年、南太平洋のシェパード諸島に位置するバヌアツ共和国が、地球温暖化による海位上昇によって国土が水没する危険性があるとして、CO2を大量に排出しているアメリカを相手に訴訟を起こす。この訴訟のバックには環境保護団体の米国環境資源基金(NERF)が控えており、その親玉は大富豪のジョージ・モートンだ。彼は裏で環境テロリストと結び付いており、また自身の金儲けのため人為的に自然災害を起こそうと画策していた。モートンの顧問弁護士エヴァンズと秘書のサラ、大学教授のケナーらは、この陰謀を阻止するため決死の戦いに身を投じる。



 エヴァンズたちと環境テロリスト組織とのバトルは、大して面白くはない。描き方が散漫で緊張感に欠ける。キャラクターの掘り下げも浅い。映画に例えれば、ローランド・エメリッヒやマイケル・ベイの監督作みたいなものだ(笑)。しかしながら、前半に散りばめられた環境保護派の主張に対する反論の数々は、かなり興味深い。特に、地球温暖化の議論を欺瞞だと断じるあたりは、読んでいて思わずニヤリだ。

 もちろん、本書に展開されている“反エコロジー”のロジックがすべて正しいというわけではない。事実、この本の出版後に専門家筋から批判的な論評が相次いでいる。地球温暖化がデタラメだろうが何であろうが、環境破壊は断固として阻止しなければならないのだ。

 クライトンの作品は何度も映画化されているが、本作に限ってはそれも難しいだろう。ただし、トレンドに安易に乗っかることの危険性を指摘している点は、評価したい。世の中がひとつの方向に大きく振れた時にこそ、冷静な分析と思考が必要なのである。

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