近作「ぐるりのこと。」で名匠ぶりを発揮し始めた橋口亮輔監督が95年に撮った作品。17歳の高校生・伊藤(岡田義徳)は同級生の吉田(草野康太)に同性愛的感情を持つが表には出せない。吉田は最近転校してきた相原(浜崎あゆみ)に魅かれているが、彼女は前の学校でレイプ事件の被害者になっていて、人間不信に陥っている。優等生の清水(高田久美)は吉田が好きなのだが、彼は友人としか思っていない。悩みを抱えた4人のひと夏の顛末を描く。
感想だが、無理なく4人の青春群像を追っていて好感の持てる作品だと思った。ゲイ、いじめ、レイプなどセンセーショナルな要素を持ってはいても、それ自体を描くことが目的ではない。誰にも打ち明けられない悩みを持ち、心に傷を負った普遍的な若者像を提示することに腐心している。前作では空回りしたワンシーン・ワンカット技法も登場人物の心の動きをすくい取るのに大きく貢献。
感心したのは、彼らが“大人は判ってくれない”とばかりに欝屈した心情を持っているにもかかわらず、一方で“仕方がない、自分のせいでもあるのだから”という諦念とも似た醒めた意識を持っていることを示している点だ。ゲイだレイプだと“これだけ自分はネガティヴなものを持っているのだ”という次元にとらわれて映画を作れば、単なるウケ狙いのトレンディ・ドラマにしかならない。誰でもこの年齢の頃を振り返れば、ネガティヴな要素はしょせんアイデンティティにはならず、必ず冷静で前向きな“もうひとりの自分”が成長を助けていたことを知っているはずだが、それを忘れてキワ物に走る凡百の作家とは一線を画していると思う。
たとえば伊藤と吉田の家庭は健全とはいえないが、それ自体にこだわる描写はほとんどない。二人とも家庭が普通でないことを承知しつつ、それを受け入れて日々生きる。状況に対して何の気負いもないように見える。ただ、そうであればなおさら、ラスト近くの吉田、伊藤、相原の独白のシーンが切なく迫る。“優しいふりするな”とツッパッてはみても“誰かに判ってもらいたい”という心からの叫びがこちらにヒリヒリ伝わるようだ。
しかしそれより印象的だったのは、中盤での清水と三枚目役の奸原(山口耕史)が校舎の屋上で会うシーンだ。両方とも片思いの相手がいて、報われないと知っている。たかが失恋と思ってはいるが、けっこうショックを受けている二人が、心をふと通わせる様子が繊細なタッチで綴られている。
孤立と諦念と優しさが交錯する若者だけの世界(大人の影は薄い)を、四方を山と海に囲まれた長崎の街の風景が象徴する。万全の出来とは言えないまでも、これはなかなかの佳作だと思う。なお、ヒロイン役の浜崎のその後の活躍は周知の通りだが、私としては彼女には歌手よりも女優の道を選んで欲しかった。そうなれば、めぼしい人材がいないこの年代(現在の20代後半から30歳前後)の中で有力な演技者となったはずだ。
感想だが、無理なく4人の青春群像を追っていて好感の持てる作品だと思った。ゲイ、いじめ、レイプなどセンセーショナルな要素を持ってはいても、それ自体を描くことが目的ではない。誰にも打ち明けられない悩みを持ち、心に傷を負った普遍的な若者像を提示することに腐心している。前作では空回りしたワンシーン・ワンカット技法も登場人物の心の動きをすくい取るのに大きく貢献。
感心したのは、彼らが“大人は判ってくれない”とばかりに欝屈した心情を持っているにもかかわらず、一方で“仕方がない、自分のせいでもあるのだから”という諦念とも似た醒めた意識を持っていることを示している点だ。ゲイだレイプだと“これだけ自分はネガティヴなものを持っているのだ”という次元にとらわれて映画を作れば、単なるウケ狙いのトレンディ・ドラマにしかならない。誰でもこの年齢の頃を振り返れば、ネガティヴな要素はしょせんアイデンティティにはならず、必ず冷静で前向きな“もうひとりの自分”が成長を助けていたことを知っているはずだが、それを忘れてキワ物に走る凡百の作家とは一線を画していると思う。
たとえば伊藤と吉田の家庭は健全とはいえないが、それ自体にこだわる描写はほとんどない。二人とも家庭が普通でないことを承知しつつ、それを受け入れて日々生きる。状況に対して何の気負いもないように見える。ただ、そうであればなおさら、ラスト近くの吉田、伊藤、相原の独白のシーンが切なく迫る。“優しいふりするな”とツッパッてはみても“誰かに判ってもらいたい”という心からの叫びがこちらにヒリヒリ伝わるようだ。
しかしそれより印象的だったのは、中盤での清水と三枚目役の奸原(山口耕史)が校舎の屋上で会うシーンだ。両方とも片思いの相手がいて、報われないと知っている。たかが失恋と思ってはいるが、けっこうショックを受けている二人が、心をふと通わせる様子が繊細なタッチで綴られている。
孤立と諦念と優しさが交錯する若者だけの世界(大人の影は薄い)を、四方を山と海に囲まれた長崎の街の風景が象徴する。万全の出来とは言えないまでも、これはなかなかの佳作だと思う。なお、ヒロイン役の浜崎のその後の活躍は周知の通りだが、私としては彼女には歌手よりも女優の道を選んで欲しかった。そうなれば、めぼしい人材がいないこの年代(現在の20代後半から30歳前後)の中で有力な演技者となったはずだ。


