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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN」

2025-03-31 06:05:30 | 映画の感想(な行)
 (原題:A COMPLETE UNKNOWN)とても見応えがあり、楽しめた。超有名ミュージシャン、しかも現時点で健在という、映画として扱うには難しい素材を違和感なく料理していることに感心する。何より、主人公たちが奏でる楽曲が素晴らしいのだ。観ている間、素直に“ああ、音楽って何てイイんだろう!”という感慨を深めた。本年度を代表する秀作かと思う。

 1960年代初頭、若き日のボブ・ディランはミネソタからニューヨークにやってくる。彼は入院中のウディ・ガスリーを見舞った後、当時の人気シンガーであったピート・シーガーや、代表的フォーク歌手のジョーン・バエズらと出会って刺激を受け、自身の音楽を追求していく。時代はフォーク・ミュージックの勃興期で、その中でディランは次世代のスターとして祭り上げられていくが、次第にその境遇に違和感を抱くようになり、ついに1965年7月25日、開催中のニューポート・フォーク・フェスティバルにて彼は思いきった行動に出る。



 ノーベル文学賞まで獲得してしまった音楽界の大物であるボブ・ディランの、デビュー間もない頃にフォーカスした映画だ。原作がこの時代を題材にしたイライジャ・ウォルドによるノンフィクション「ボブ・ディラン 裏切りの夏」であることも関係しているが、この割り切り方は正解である。あれだけのビッグネームを総論的に捉えようとしても、それは無理な注文だ。青年期の主人公が、いかにして自身の音楽を練り上げていったのか。そのことを描破すれば、後の彼の音楽遍歴や彼を取り巻く世界的な音楽トレンドの変化をも想像できるというものだ。

 シーガーをはじめとするディランに一目置いていたフォーク界の期待、そしてそれが1965年の一件により、ディランの音楽が狭いジャンル分けという次元を超越した存在になった際の周囲の動揺などが、的確に描かれている。それがまさに音楽のイノベーションを表現していて、大いに納得できるものだ。

 主人公役のティモシー・シャラメはまさに敢闘賞もの。歌とギターを特訓し、ついにはサントラの音源にまで使われるレベルになった。ヘタすればただのモノマネ大会になったところだが、シャラメによる若きディランの再現は実に堂に入っている。シーガー役のエドワード・ノートン、ジョーン・バエズに扮したモニカ・バルバロ、共に素晴らしいパフォーマンスだ。

 恋人シルヴィを演じるエル・ファニングは、具体的な特定モデルがいないこの役柄を説得力を持ったキャラクターに押し上げている。ジェームズ・マンゴールドの演出は達者で、これまでの彼の作品の中ではベストだ。フェドン・パパマイケルのカメラによる、この時代のカラーをよく出した映像も要チェックだ。あと、シーガーの妻で日系人のトシを演じる初音映莉子が強い印象を残す。

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