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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「怒り」

2016-11-03 06:25:22 | 映画の感想(あ行)

 力のこもった作劇で、鑑賞後の満足度は高い。よく見ると辻褄の合わない箇所も散見されるのだが、骨太な演出力とキャストの頑張りによって、観る者をねじ伏せてしまう。李相日監督は話題作はいくつか手掛けているのだが、質の面ではデビュー作の「青 ~chong~」(99年)をなかなか超えられなかった。しかしここにきて、ようやく代表作をリリースすることが出来たと言えよう。

 酷暑のある日、東京・八王子で夫婦が殺される事件が発生する。大きな“怒”の血文字が残った現場は凄惨を極めたが、犯人はなかなか特定できない。1年後、山神一也という者が本ボシであることが判明するものの、整形手術をして逃亡を続けている。そんな時、千葉と東京と沖縄に山神と似た風貌の男が現れる。

 千葉の海沿いの町では、元風俗嬢の愛子が身元不明の田代という青年と心を通わせるが、彼が手配書の写真と酷似していたことから愛子は思わぬ行動を取り、田代はどこかに行ってしまう。東京ではエリートサラリーマンで同性愛者の優馬が、偶然知り合った直人という若い男と一緒に暮らし始めるが、指名手配の写真と直人が似ていることから、優馬は動揺を隠せなくなる。母と共に沖縄に移り住んだ高校生の泉は、沖合の無人島に一人で生活する青年・田中と知り合うが、ある日同級生の男子生徒と出かけた歓楽街で災難に遭う。

 怪しい男が3人も同時に出現するというプロットは無理があり、犯人を追う捜査陣はあまり有能に見えない。沖縄のパートでは、無人島で若い娘が得体の知れない男と二人きりになるというシチュエーションを平気で提示している。そもそも真犯人の内面には切り込んでおらず、ただのキ○ガイであったと言わんばかりのオチでは、どうも釈然としない。

 しかしながら、それらの瑕疵を差し引いても、展開される各エピソードは観る者を圧倒するほどドラマティックだ。千葉のパートは頭の少し弱い娘に対する父親の懊悩と、暗い過去を背負った青年の迷いが画面から鮮明に伝わってくる。東京のパートは優れた“純愛映画”であり、また主人公達を取り巻く人物の扱いも見事と言うしかない。沖縄の、明るい陽光の中に見え隠れする米軍基地を背負った土地柄の不安要素が、泉達の運命の通奏低音になっている。

 彼らは過酷な現実に直面しながら、それでも人間関係を信じ、何とか希望を見出そうとしている。そのポジティヴさをバックアップする演出の頼もしさは嬉しくなる。

 渡辺謙を筆頭に、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、妻夫木聡、高畑充希、原日出子と豪華な顔ぶれを揃えていながら、それぞれの描写にはまったく手を抜いていないし、キャストも見事にそれに応えている。中でも印象的だったのは愛子に扮する宮崎あおいで、頭が弱く風俗に身を落としてしまう役ながら、突き抜けた透明感でキャラクターに血を通わせている。

 また、泉を演じる広瀬すずのパフォーマンスには驚いた。彼女より年上の若手・中堅の女優でも躊躇するような役に、よく挑戦したものだ。アイドル的な位置付けから一歩踏み出そうとする姿勢は評価したい。そして本作の最大の“発見”は、泉の男友達を演じる佐久本宝だ。序盤はナイーヴな雰囲気だが、徐々に存在感を増し、終盤にはドラマの帰趨を決定する重要な働きをする。そんな難しい役をまったく破綻無く演じきっており、今後の活躍を期待させる。

 笠松則通によるカメラワークは素晴らしく、坂本龍一の音楽は前に観た「レヴェナント:蘇えりし者」よりも数段ヴォルテージが高い。とにかく、今年度の日本映画を代表する秀作であり、観る価値は大いにある。

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