(原題:ALL THE MONEY IN THE WORLD)話自体は大して面白くないが、キャストの存在感により何とか最後まで見せきったという感じだ。リドリー・スコット監督としても、近年は凡作・駄作の連打であったが久々に“語るに足る映画”を手掛けたと言えよう。
73年7月。当時の世界一の大富豪である石油王のジャン・ポール・ゲティの17歳の孫ポールが、ローマで誘拐される。犯人グループからは1700万ドルという破格の身代金が要求されるが、稀代の守銭奴でもあるゲティはビタ一文払う気は無かった。ポールの母ゲイルは当時すでにゲティの息子とは離婚していたが、何とか人質を取り戻そうと、犯人とゲティ家の両方を相手に奮闘する。
警察は犯人達の身元を割り出し、アジトを急襲するもののポールはすでにマフィアに“売られて”いた。ポールの状況がさらに危なくなってきたことが分かると、さすがのゲティも重い腰を上げようとするのだが、それでも身代金を満額出すことは考えていない。実際にローマで起きたゲティ3世誘拐事件を描いた、ジョン・ピアースンによるノンフィクション小説の映画化だ。
物語はゲイル(ミシェル・ウィリアムズ)とゲティに雇われた元CIAの交渉人チェイス(マーク・ウォールバーグ)を中心に展開するのだが、この2人の造型が不十分だ。ゲイルはゲティ家を離れた後、どういう境遇に置かれているのか分からない。思わせぶりに登場するチェイスも、目立った活躍はしていない。
そもそも、犯人を検挙するはずの警察が(具体的な説明も無いまま)ほとんど機能していないので、ゲイルとゲティがバタバタと走り回っても進展しているようには見えないのは辛い。
しかし、そんなマイナス要因を吹き飛ばしてしまうのが、ゲティのキャラクター設定だ。よく“金持ちほどケチだ”と言われるが、彼はその最たるもので、何しろ身代金を値切った挙げ句にそれが控除の対象になるかどうかを大いに気にする始末なのだ。演じるクリストファー・プラマーのパフォーマンスは最高で、煮ても焼いても食えないクソジジイぶりを実に楽しそうに演じる。
さらに、ポールに扮する新鋭チャーリー・プラマーもけっこう逸材だ。ルックスの良さも相まって、今後は人気を博すことだろう。ティモシー・ハットンやロマン・デュリスといった脇の面子も良い。
派手なアクションや切迫するサスペンスが入り込む余地が無い実話を元にしているせいもあり、リドリー・スコットの演出は歯切れが良くない。また、画面がやたら暗いのにも閉口した。重厚感を出そうとしたのかもしれないが、登場人物の表情もよく分からず、これでは逆効果だ。キャスティング以外に興味を惹かれたのは、当時のマスコミの狂騒ぶり。暴徒と見まごうばかりの傍若無人な振る舞いに、驚き呆れるばかりだ。これも時代考証が上手くいっている証左なのだろうか。