元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「重力ピエロ」

2009-06-12 06:29:44 | 映画の感想(さ行)

 ヘンな映画だ。もっとも、伊坂幸太郎による原作も妙な話だった。伊坂の小説で最初に手にしたのがこの「重力ピエロ」だったが、あまりにも腑に落ちない話でウンザリし、それからしばらくは彼の作品は敬遠していたほどだ。この映画化作品も当然の事ながら原作通りのストーリー展開であり、その“ヘンテコ度”は変わることはない。おかげで居心地の悪い2時間を過ごすことになった(だったら最初から観なければ良かったのだが ^^;)。

 そもそも仙台の街を騒がせる落書き犯および放火魔が、どうしてこういう行動を取ったのかまったく分からない。もちろん、終盤には理由らしきものが提示されるが、よく考えればこんな面倒臭い方法を採用しなくても、直接的にカタを付ければ済む話ではないのか。しかもそのオトシマエの付け方は明らかに凶悪犯罪だ。いくら相手がワルだろうと、こっちが阿漕な手を使ってしまっては、同じ穴のムジナではないのか。そんな体たらくで“オレたちは最強の家族だ!”なんて粋がってみても、阿呆臭くて見ていられない。

 母親がレイプされたことによって生まれた弟が話の中心になっているが、普通は悪者の子供を宿してしまったらまず“堕ろす”という選択肢が先に来るのではないか。にもかかわらずこの両親は産み育てることを選択するのだが、それならそうで背景をもっとテンション上げて描かないと説得力はゼロである。御為ごかしのような“神様に聞いてみた”というフレーズも白々しい。

 タイトルは重力に逆らってピエロのように飄々と世の中を渡っていく主人公一家を表現したかったのだろうが、ハッキリ言って地に足が付いておらずフワフワと漂っている、つまらないモラトリアム人間の暗喩としか思えない。

 森淳一の演出は「ランドリー」などの過去の諸作よりはマシだが、特筆されるべき箇所はない。加瀬亮と岡田将生の兄弟は悪くないし、小日向文世と鈴木京香の両親もそこそこイケるし、吉高由里子は笑える役で出てきて画面を盛り上げてくれるのだが、ストーリーそのものが宙に浮いたようなシロモノなので、あえて評価する義理もないだろう。

 余談だが、伊坂の小説で一番映画化がふさわしいのは「グラスホッパー」だと思う。すでに「ラッシュライフ」の製作が進められていると聞くが、重層的な構造を持つあの作品はヘタな演出家が担当すると散漫な出来になることは必至。その点「グラスホッパー」ならばキャラクターの造形も容易で、凡庸なスタッフが手掛けたとしても“そこそこの出来”にはなると予想する(^^;)。

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