元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ブルベイカー」

2009-06-13 10:25:03 | 映画の感想(は行)

 (原題:BRUBAKER)80年作品。「さすらいの航海」などのスチュアート・ローゼンバーグ監督作である。主演はロバート・レッドフォード。製作当時、レッドフォードは本作をもって俳優業を辞めるという噂が流れた。折しも彼が監督第一作「普通の人々」を手掛けた頃で、しかもそれがアカデミー賞の下馬評に挙がっており、今後は監督業に専念するのではないかとの説は信憑性が高かったと思われる。ただし、彼はそれからも俳優として活躍しており、当時はそれだけトップスターが監督業に乗り出すことは“一大事”だったのだろう。演出もこなすハリウッド俳優が珍しくなくなった今日から考えると、隔世の感がある。

 さて、当時の映画雑誌の謳い文句を引用するならば、この作品は“アメリカの刑務所内の不正義と人間の心の闇を真正面から告発した力作”なのだそうだ。しかも、監督のローゼンバーグはかつて快作「暴力脱獄」で反権力のスタンスを真っ向から見せている。あの映画と同様に刑務所を舞台にした本作はかなりの映画になると思われた。

 しかし、実際観た印象は「暴力脱獄」の感銘度にはほど遠い。これはおそらく、主人公ブルベイカーの内面描写およびドラマに於ける立ち位置がハッキリしないことが原因だろう。自分が新たに赴任する予定の刑務所に新入りの囚人を装って“内偵”するという設定は悪くない。ただし、そのことを映画の“オチ”にしようとするような展開はいただけないと思う。何しろそのネタは前半で早々に明かされてしまうのだ。身分を隠して最後に「遠山の金さん」よろしくアッと言わせるような筋書きにした方がよっぽど興趣は盛り上がったはずである。

 あるいは“内偵”ならばそれらしくリアルな描写と主人公の葛藤をメインに捉えるべきだったはずだが、残念ながら彼の性格が最後まで分からない。そしてそれ以上に、この刑務所の運営状況が曖昧模糊としている。囚人を外部の企業に“出向”させる制度など、聞いたことがないのだが・・・・。意味不明のまま、これまた感動して良いのか分からないラストを漫然として迎える神経には、観ている方は頭を抱えるばかり。どうも釈然としない出来である。
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