元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「図鑑に載ってない虫」

2007-07-07 07:51:28 | 映画の感想(さ行)

 本作がまったく面白くない理由は、三木聡監督の前作「亀は意外と速く泳ぐ」と比べればすぐに分かる。あの映画の玄妙なところは、平凡な主婦が“スパイ募集”の広告を見たことがきっかけになり“異世界”に足を突っ込むことになるという、つまり“日常”と“非日常”とのギャップが明確に描かれていた点だ。物語のベースをはじめに“日常”の方に置いていたからこそ“非日常”の奇天烈さが強調され、ナンセンスな笑いを大いに生み出したと言える。

 対してこの新作は、最初から“非日常”の側にどっぷりハマり込んでいる。これでは“日常”との乖離うんぬんなど関係なく、全編これバカバカしい設定の中で常軌を逸した登場人物たちがアホなマネを延々と繰り返すだけという、まるで売れないアングラ芝居のような展開を示すしかない(だいたい“煎じて飲めば死後の世界を体験できる虫”などというモチーフからして“非日常”の極みである)。作劇にリズムを持たせるためロードムービーという形式を取ってはいるが、あまり効果があがっていない。

 それでも、個々のギャグが“非日常”の括りを突破してしまうほどのヴォルテージの高いものだったら許せるが、どれもこれも安易なくすぐりに終始するだけの、ほとんど笑えないシロモノばかり。はっきり言って、そのへんの宴会芸よりも落ちる。

 出演者陣もパッとしない。さすがの自然体ボケ(?)を発揮する松尾スズキや三木作品の常連の岩松了とふせえりは手堅いパフォーマンスだとは言えるが、主役の伊勢谷友介はいただけない。何やっても“常識人臭さ”が鼻につき、それを払拭しようと頑張ってはいるが、気負いばかりが空回りだ。

 ヒロイン役の菊地凛子はもっとダメ。おちゃらけ演技がまるで上滑りだ。「バベル」などを観ても分かるが、彼女は完全な“熱演型”の俳優である。努力によって役を引き寄せようとしている。だが、逆に役柄の方からスッと演じる側に寄り添ってくるような姿勢を作り上げないと、大成は覚束ないと思う。

 その点「亀は意外と~」の上野樹里は並はずれた“天然ボケ”でアッという間に役柄にハマっていたし、共演の蒼井優もノンシャランな(?)柔軟性で登場人物になり切っていた。これが女優としての資質の違いかと大いに感じ入ったものだ。

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