元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ハウ」

2022-09-10 06:18:28 | 映画の感想(は行)
 観終わって印象に残ったのは、本作の“主人公”であるハウに扮した俳優犬ベックの“名演技”と、ヒロイン役の池田エライザの美脚のみ(笑)。それ以外はどうでもいい映画だ。とにかく、筋立てが良くない。辻褄の合わないシークエンスが目立ち、ドラマの決着の付け方もまったく気勢が上がらない。動物に頼り切りの作劇では、求心力なんか期待できないのだ。

 横浜市職員の赤西民夫は交際相手から婚約を破棄され、失意のどん底にあった。見かねた上司の鍋島は、彼に保護犬を飼うことを奨める。この犬は元の飼い主に声帯を切られたらしく“ハウッ”としか啼けない。民夫はハウと名付けたこの大型犬と絆を深めるうちに、落ち込んだ気分も次第に上向いてくる。そんなある日、突然ハウが姿を消す。ハウは運命のいたずらにより、遠く離れた青森まで運ばれてしまったのだ。ハウは民夫の元に帰るため、そこから横浜まで約800キロの道のりを歩く。斉藤ひろしによる同名小説の映画化だ。

 まず、新婚生活用に家まで購入した民夫が、簡単に婚約破棄に泣き寝入りしてしまうのは納得できない。これは損害賠償の訴訟案件であり、安易にスルーして良いものではない。さらに彼の上司が“犬でも飼わせれば立ち直るだろう”みたいなノリでハウをあてがうのも愉快になれない。ハウがいなくなったのは民夫の凡ミスであり、遠方からどうやってハウが横浜を目指すのかも分からない。

 ハウが道中で出会う人々は登校拒否の女子中学生だったり、シャッター街で孤独に過ごす老婦人だったりと、それぞれヘヴィな境遇だが、この手の映画で扱うようなネタとは思えない。極めつけは修道院での大立ち回りで、屋上屋を重ねるがごとき絵空事のモチーフが乱立。途中でいい加減面倒臭くなってきた。そもそも民夫の後ろ向きのキャラクターには共感できず、同僚の足立桃子の現実感希薄な“良い子”ぶりには閉口するばかり。

 犬童一心の演出は精彩が無く、単にストーリーを追っているだけ。民夫役の田中圭をはじめ、桃子に扮する池田に野間口徹、渡辺真起子、モトーラ世理奈、長澤樹(新人)、田中要次、利重剛、市川実和子、田畑智子、そして石橋蓮司に宮本信子と悪くない顔ぶれを揃えてはいるが、上手く機能させているとは思えない。ナレーターに石田ゆり子、主題歌にGReeeeNを起用しているのも単なる話題作りに感じてしまう。
コメント
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