元・副会長のCinema Days

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「アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台」

2022-09-04 06:50:57 | 映画の感想(か行)
 (原題:UN TRIOMPHE )題材は面白そうなのだが、困ったことに似たようなネタを採用した作品にヴィットリオ&パオロ・タヴィアーニ兄弟監督による「塀の中のジュリアス・シーザー」(2012年)という突出した前例があり、それに比べれば本作はかなり見劣りがする。実話という条件を勘案しても、ヴォルテージの低さは否めない。

 主人公エチエンヌはベテランの俳優だが、風采が上がらず未だに大きな仕事を任せられたことは無い。そんな彼に、刑務所の囚人たちを対象とした演劇の指南役を依頼される。刑務所側としては知識豊富だがギャラは安くて済む彼の起用は好都合だったのだが、そんな境遇にもめげずエチエンヌは情熱的にミッションを遂行しようとする。



 彼はサミュエル・ベケットの戯曲「ゴドーを待ちながら」を演目に選び、日々囚人たちを指導するのだが、その努力が実り彼らの舞台は評判を呼び再演を重ねることになる。そしてついにはパリ・オデオン座から公演依頼が届く。スウェーデンの俳優ヤン・ジョンソンの実体験を元にしたシャシンだ。

 最大の不満点が、囚人たちがどうして演劇に興味を持ったのか、それが描けていないことだ。ここに出て来る囚人たちは、どう見ても演劇に興味を持つような教養を持ち合わせてはいない。単なる犯罪者だ。それが本職の俳優が指導したぐらいで演技に目覚めるものなのか、甚だ疑問である。前述の「塀の中のジュリアス・シーザー」では、生まれて初めて真の芸術に触れた囚人たちのカルチャー・ショックとそれに向き合う姿勢を鮮明に描出していたが、本作にはそのような興趣は無い。

 では何があるのかというと、エチエンヌの身の上話である。うだつの上がらない自身の役者人生と、家族に対する複雑な思いなどが切々と語られる。しかし、それが面白いかと言われると、賛同できない。冴えないオッサンの独白よりも、囚人たちを物語の真ん中に置く方が、数段興味を惹かれる展開が期待される。ラストの処理は事実に基づいているのだろうが、見ようによっては“結局、何だったんだ”というような気勢の上がらない感想しか持てなくなる。

 エマニュエル・クールコルの演出は可も無く不可も無し。少なくとも、タヴィアーニ兄弟のような才気は望むべくもない。主演のカド・メラッドをはじめ、ダビッド・アヤラにラミネ・シソコ、ソフィアン・カーム、ピエール・ロッタンなどのキャストはキャラクターとして弱い。ニーナ・シモンによる主題歌だけは良かった。
コメント
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