元・副会長のCinema Days

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「キングメーカー 大統領を作った男」

2022-09-12 06:51:10 | 映画の感想(か行)
 (英題:KINGMAKER )見応えのある実録ポリティカルサスペンスで、この手のシャシンを作らせると韓国映画は無類の強さを発揮する。取り上げた題材といい、キャストの動かし方といい、苦みの効いた筋書きといい、すべてが及第点。また登場人物たちの言動を追っていくと、政治家の何たるかを改めて考えたくなる。その意味でも示唆に富んだ作品と言える。

 1961年、韓国東北部の江原道にある小さな薬局のしがない店長ソ・チャンデは、野心家で策略家という別の顔を持っていた。彼は野党の新民党に所属するキム・ウンボムの演説を聞いて感激し、早速ウンボムの選挙事務所に乗り込んで選挙に勝つための戦略を提案する。一同はチャンデを怪しむが、ウンボムはその思い切った選挙戦術を気に入って彼をスタッフとして採用する。



 その結果ウンボムは補欠選挙で初当選を果たしたのを皮切りに、瞬く間に党の有力者にのし上がる。だが、勝つためには手段を選ばないチャンデに、リベラル派のウンボムは次第に違和感を覚えるようになる。第15代韓国大統領の金大中と彼の選挙参謀だった厳昌録との関係を、事実を元にして描く。

 チャンデがいわゆる脱北者であることが大きなポイントになっている。自由と公正を求めて韓国に逃れてきたものの、そのプロセスは綺麗事など言っていられないほどのハードでシビアな側面があったことは想像に難くなく、彼の“目的のためならば汚いことでも平気でやる”というスタンスはそのあたりを起源としている。

 ところが、チャンデは理想主義を売り物にして支持を集めていたウンボムとは根本部分で相容れることは無い。結局は2人は袂を分かつことにもなるのだが、互いを完全に否定できないのも確かだ。この、理想と汚い現実とが並び立つことこそ政治そのものである。斯様な主題の組み立て方は図式的かもしれないが、激動の韓国の現代史をバックに描かれると興趣は増すばかりだ。

 それにしてもチャンデの遣り口はエゲツない。政敵の関係者になりすまして選挙違反をやらかすのは序の口で、とにかく“選挙に勝つには票を得るよりも、競争相手の票を減らすことが効果的”と嘯く確信犯ぶりはある意味痛快だ。その反面、自身は決して政治の表舞台には立てないことを自覚する悲哀も見せる。

 脚本も担当したビョン・ソンヒョンの演出は力強く、主人公2人がそれぞれの立場で正念場を迎え、それを乗り越える過程を畳み掛けるようなタッチで綴る。演じるイ・ソンギュンとソル・ギョングのパフォーマンスは万全で、特にイ・ソンギュンは「パラサイト 半地下の家族」とは全く異なる役柄を軽々とこなしているのは驚かされる。それにしても、韓国は“地域性”が大きくモノを言うことが改めて印象付けられた。政治の世界だけではなく、この区分けは文化面でも厳然としているのだろう。ドキュメンタリータッチのザラザラした画調も場を盛り上げる。
コメント
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