元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ブレット・トレイン」

2022-09-26 06:10:56 | 映画の感想(は行)
 (原題:BULLET TRAIN)本作で一番興味を惹かれたのは、原作が伊坂幸太郎の「マリアビートル」である点だ。伊坂の小説は過去に国内で何回も映画化されてきたが、真に満足できるものは一本も無かった。作り手の力量がイマイチである点が大きいのだが、それ以前に彼の小説の独特の作風と語り口が日本映画のルーティンと合致していないと思ったものだ。しかし、今回これをハリウッドで映画化すると、ほとんど違和感が無いのが面白い。

 あまり割の良い仕事が回ってこない殺し屋のレディバグに新たに与えられたミッションは、東京駅発の新幹線に乗りブリーフケースを盗んで次の駅で降りるという、かなりイージーなものだった。しかし、実際に乗車してみると見知らぬ殺し屋どもが次々に襲ってきて、降りるタイミングを逸してしまう。挙げ句の果ては、世界的シンジケートのボスであるホワイト・デスが待ち受ける終点の京都駅へ向かうハメになる。



 徹底的にウェットな心理描写を排除し、各キャラクターはニックネームで呼ばれるように現実感を剥奪されている。ただし、プロットの組み立ては登場人物に人間性が希薄なため、ドラスティックに推し進めることが出来る。これを日本映画でやると絵空事の域を出ないのだが、対してハリウッド映画の賑々しさが加味されてしまうと(もちろん、十分な資本投下も相まって)観ていて納得してしまうのだ。

 デイヴィッド・リーチの演出は「デッドプール2」(2018年)に続いて悪ふざけ一歩手前のハチャメチャぶりを全面展開している。このやりたい放題の所業に拒否反応を示す観客もいるとは思うが、私は楽しんでしまった。ハリウッド名物“えせ日本”も、京都近くに富士山がそびえたりする不手際(?)もあるとはいえ、まあ我慢できる程度に抑えられている。

 主演のブラッド・ピットをはじめ、アーロン・テイラー=ジョンソンにブライアン・タイリー・ヘンリー、マイケル・シャノン、ジョーイ・キング、サンドラ・ブロックら多彩なキャストも、楽しそうに常軌を逸したキャラに扮している。さらに真田広之が重要な役で出演し、さすがのアクションを披露しているのも嬉しい。音楽担当はドミニク・ルイスだが、それよりも場違いとも言える既成曲の使い方が笑えた。ともあれ、伊坂の小説は今後もハリウッドでの映画化を望むものである。
コメント
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