元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「SHADOW 影武者」

2019-10-07 06:29:03 | 映画の感想(英数)
 (原題:影)ストーリー自体はさほど面白くはない。各キャラクターの掘り下げも上手くいっていない。しかしながら、映画の“外観”は目覚ましい美しさを誇っている。また、アクション場面の造型は屹立した独自性を獲得している。一応、張藝謀監督の面目は保たれたと言って良いだろう。

 3世紀、中国大陸中部にあった弱小国家の沛は、隣国である炎に軍事拠点を占領され、そのまま20年の歳月が経っていた。沛の重臣である都督は、戦いによる傷と病で表に出られない状態だったが、影武者を立てて何とか政治に関与していた。若き王は炎国と休戦同盟を結んでいたが、都督は拠点の奪還を目指し、炎国の将軍である楊蒼に武術試合を申し込み、その隙に軍を進め一気に攻め落とす作戦に出る。都督の勝手な行動に王は激怒するが、王は密かに別の作戦を立てて事態の収拾を図っていた。「三国志」の荊州争奪戦をベースにしたオリジナル脚本である。



 都督の境遇に関する説明は通り一遍であり、説得力を欠く。影武者も、実態の無い自らの立場に対する屈託は上手く表現されていない。若い王は外見こそチャラいが、実は権謀術数に長けているような設定ながら、性格付けが曖昧だ。このように登場人物達は存在感が希薄であるため、彼らがいくら組んずほぐれつ陰謀を展開させようと、話は宙に浮くばかり。特に終盤は、明らかに致命傷を負ったキャラクターが延々と立ち回りを演じるなど、観ていて鼻白むばかりだ。

 だが、本作の映像は非凡である。ほとんどモノクロで、劇中は絶えず雨が降り続いている。まるで墨絵のような、独自の世界観を確立。もっとも、そのことが物語の内容や各キャラクターの内面にリンクしていないのは残念だ。

 そして活劇場面はかなりユニークである。沛の兵士が使用するのは、刀を傘のように束ねた新兵器アンブレラ・ソードだ。しかも、強い回転を加えることにより、兵士を乗せたまま地上を滑走する。これが大挙して攻め入るシーンは壮観だ。対する炎国の兵士も長い刀剣で立ち向かう。殺陣も完璧であり、観ていて盛り上がる。都督と影武者に扮するダン・チャオは好調。見事に二役を演じ分けている。チェン・カイやワン・チエンユエン、ワン・ジンチュンといった脇の顔ぶれは馴染みが無いが、いずれも的確な仕事ぶり。スン・リーとクアン・シャオトンの女優陣はとてもキレイだ。
コメント
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