元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「帰れない二人」

2019-10-26 06:52:35 | 映画の感想(か行)

 (英題:ASH IS PUREST WHITE )かつて注目作を放ったジャ・ジャンクー監督も、昨今はネタ切れのようだ。前作「山河ノスタルジア」(2015年)では冴えない題材を小手先の映像ギミックで糊塗しようとしたが(もっとも、そのことを本人は自覚はしていないと思われる)、この映画は本来のスタイルに立ち返ったものの、何ら新しい提案が成されていない。正直、長い上映時間が辛く感じた。

 2001年、山西省の大同に暮らすチャオは、街の顔役であるヤクザ者のビンと付き合っていた。ある日、敵対する勢力が放ったチンピラ連中にビンが襲われ、チャオは助けようとしてビンから預かっていた拳銃を威嚇発砲する。銃器不法所持の罪を被ったチャオは、懲役5年の判決を言い渡される。2006年に出所した彼女は、音信不通だったビンを探して長江の沿岸にある奉節に赴くが、彼は取引先の女と懇ろな仲になっていた。居場所が無くなったチャオは、新疆ウイグル自地区まで傷心の旅に出る。

 開巻からチャオが逮捕されるまでが、意味も無く長い。この間、筋書きが面白いわけでも、直截的な恋愛の描写があるわけでも、映像に見どころがあるわけでもなく、ただ漫然と画面が流れてゆくだけだ。そしてチャオが足を運ぶ奉節の奇観は目を引くが、これはこの監督が過去作品でも紹介していたモチーフなので、何ら驚きは無い。夜空にUFOが飛ぶ等の奇を衒ったシーンも、以前の作品の二番煎じである。

 ヒロインが旅の途中で出会う者達も、少しも印象に残らないし、出てくる意味も掴めない。後半、チャオがどうしてビンと再会したのか、どうやって大同に戻ったのか、それも説明されていない。また、終盤はいつの間にか時代設定が2017年になっているが、そこに至るプロセスが描かれていない。そもそも、チャオを映すパートが多い割に、彼女のプロフィールや性格が示されていない。これで登場人物に感情移入しろと言われても、無理な注文だ。

 かと思えば、21世紀に入ってからの中国社会の変節に関する描写も不十分だ。せいぜい奉節が三峡ダム建設に伴う水没地帯であったため、大規模な住民移動が実施されたという事実を紹介する程度。主役のチャオ・タオとリャオ・ファンの演技は、可もなく不可も無し。脇のキャラクターを演じる俳優達にも、目立った者は見当たらず。それにしても、この邦題は何とかならなかったのか。作品の内容を暗示しているわけでもなく、それ以前に井上陽水のナンバーと一緒ではないか(笑)。
コメント
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