元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ニール・サイモンのキャッシュ・マン」

2019-10-04 06:32:50 | 映画の感想(な行)

 (原題:Max Dugan Returns )83年作品。80年代の演劇界および映画界において活躍した、ニール・サイモンのシナリオによる一編。突飛な設定と人を食った展開で観客の耳目を集めるものの、いつの間にかハートウォーミングな筋書きに持ち込んでしまう“サイモン節”が冴えている。出来すぎの感はあるが、やっぱり評価せずにはいられない。

 シカゴに住むノラ・マクフィーは夫と死別、一人で15歳の息子マイケルを育てている。家計は苦しいが、それに追い打ちを掛けるように自家用車を盗まれてしまう。警察署の担当刑事ブライアンはノラに同情してバイクを貸すが、それが縁でノラとの距離が縮まっていく。ある日、28年間も行方が分からなかった老父のマックスが突然ノラを尋ねてくる。

 マックスは心臓病で余命半年だと彼女に告げるが、同時にギャングから横取りした68万ドルを持参していることも打ち明け、警察とギャングの両方から追われているという。マックスはノラのために家電品や高級車を次々と購入。だが、ブライアンにマックスの存在が気付かれるのではないかと、彼女はヒヤヒヤする。

 人生の幸福は金では買えない・・・・というのは通説で、ノラもそう信じている。しかし、マックスの振る舞いは、ノラのポリシーを揺るがしていく。そう、世の中には金で手に入る幸福もけっこうあるのだ。もちろん、それには好条件と工夫が必要なのだが、本作では金によってノラとマイケルの笑顔が戻るのは確かなことである。

 とはいえ、マックスの金は出所が怪しい。だから終盤は話が大仰に二転三転するのではないかという予想を裏切り、ドラマの焦点をマイケルに向けることによって乗り切ってしまうのだから、サイモンの筆致は冴えている。ハーバート・ロスの演出は派手さは無いが堅実で、安心してストーリーを追える。

 主役のマーシャ・メイソン、マックスに扮するジェイソン・ロバーズ、ブライアンを演じるドナルド・サザーランド、この三者のバランスも良好だ。なお、マイケル役のマシュー・ブロデリックはこれが映画デビュー作になる。ドナルドの息子キーファー・サザーランドが小さな役ながら映画初出演を果たしているのも興味深い。
コメント
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