元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「さよなら子供たち」

2019-06-30 06:13:55 | 映画の感想(さ行)

 (原題:Au Revoir Les Enfants )87年フランス作品。本編はルイ・マル監督の自伝的作品である。そして同監督のフィルモグラフィの中でも1,2を争う出来映えで、第44回ヴェネツィア国際映画祭金賞やセザール賞、ルイ・デリュック賞などに輝いている。

 1944年、ナチス占領時代のフランスでカトリックの寄宿学校に籍を置いている12歳のジュリアン・カンタンは、新学期に転入生ジャン・ボネと出会う。ボネは聡明であったが、ジュリアンには彼のどうにも打ち解けない様子が気にかかる。実はボネはユダヤ人で、両親とは長い間音信不通の状態が続いていたのだ。それでもジュリアンはボネを何度も遊びに誘い、距離を縮めていく。

 そして父母参観の日に、ジュリアンはボネを食事に招待する。ユダヤ人に対する偏見は無いジュリアンの家族に好感を抱くボネだが、そんな楽しい日々は長くは続かなかった。クビになったことを逆恨みした職員の一人が、ユダヤ人生徒が在籍していることをゲシュタポに密告。学校は閉鎖され、ボネや校長先生は連行されてしまう。

 ジュリアンは親しい人々が過酷な運命に振り回される状況を前にしても、何もできなかった。それから長じて表現者となり、やっとボネ達に対する挽歌とも思える作品に結実させた。語り口はとても抑制され、ユーモアを感じさせる箇所もあるのだが、占領時代の空気は鮮やかに再現され、内に秘めた戦争への怒りは純化されている。

 突然友情が失われて以後約40年間、この映画の構想を抱き続けたマルの心情を慮れば、実に感慨深いものがある。また、主人公の名はジュリアンだが、言うまでもなくマルの出世作「死刑台のエレベーター」(1957年)の主人公の名と一緒である。あの映画のジュリアンも、インドシナ戦争に従軍して精神的なトラウマを負っていた。キャラクターは違うが、2人のジュリアンは共に戦争の悲劇を目の当たりにしているのだ。

 主役のガスパール・マネッスとラファエル・フェジトの演技は素晴らしく、レナート・ベルタのカメラによる清涼な映像は心に残る。そしてシューベルトやサン=サーンスのクラシック曲が抜群の効果を上げている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする