元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「きらきらひかる」

2019-06-21 06:27:50 | 映画の感想(か行)
 92年フジテレビジョン作品。「バタアシ金魚」(90年)と並ぶ、松岡錠司監督の初期の代表作だ。軽やかに見えて、実はシリアスに登場人物の内面に迫っていく。しかもそのアプローチはポジティヴかつロマンティックで、鑑賞後の印象は良好である。

 イタリア文学翻訳家の20歳代後半の香山笑子は、母の勧めで30歳の医師である岸田睦月とお見合いする。睦月は感じが良く、笑子は憎からず思うが、実は彼が同性愛者で女には手も触れられないことを知ってしまう。それでも笑子は情緒不安定でアルコール依存症の自分を優しく受け容れる睦月に惹かれ、結婚する。ところが、睦月の“恋人”である大学生の紺が勝手に同居するようになり、ここに不思議な“三角関係”が現出する。江國香織の同名小説の映画化だ。



 冒頭の見合いのシーンは面白い。笑子は何かというと“黙ってないで何かしゃべれよ!”だの“オマエ、笑ったな?”だのと相手に突っかかる。それでも睦月は巧みにやり過ごす。笑子は悪態をつきながらも彼の温かい人柄に触れて、別れる時には泣き出してしまうのだ。

 笑子のキャラクター造型はまさに絶品。クソ生意気で大酒飲み、結婚後もファミリーレストランのウェイトレスをはじめ周囲の人間にケンカを売りまくる。そんな彼女の態度がちっとも不愉快に思えないのは、第一に本音で生きていること、そして第二に横柄な言動の裏に純粋で愛すべき本心が見え隠れすることだ。睦月も彼女の内面に惚れ込んだことは当然と思わせる。

 愛とは互いの本質を理解して惹かれ合うことだという、ひとつの理想を提示している。その次元に達すれば、相手がどんな指向を持っていようと関係ないと言い切る、作者のロマンティストぶりが印象付けられる。中でも深夜の車の中で、あわや3人の関係が破局に至るかもしれないと思い詰めた笑子が、車を飛び出して朝まで街をさまよう終盤のシークエンスは素晴らしい。朝の光が“きらきらひかって”登場人物たちの新しい旅立ちを予感させるシーンの、何と感動的なことか。

 笑子を演じる薬師丸ひろ子のパフォーマンスは、彼女のキャリアの中でも1,2を争う。睦月役の豊川悦司と紺に扮する筒井道隆の演技も申し分のない仕事だ。加賀まりこや川津祐介、津川雅彦、土屋久美子といった脇の面子も万全。笠松則通のカメラによる透明感の映像、PSY・Sによる主題歌は文句なしの出来映えだ。
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