元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「オーケストラ・リハーサル」

2019-06-23 06:37:22 | 映画の感想(あ行)
 (原題:Prova D'Orchestra )79年作品。正直言って、わけの分からない映画である。だが、フェデリコ・フェリーニ監督にとって“わけの分からないまま観客を埒外に置く”という無責任な態度とは無縁だ。何しろ、実際観た印象はとても面白いのである。前衛的ともいえるネタを娯楽映画の次元にまで押し上げるという、フェリーニ御大の真骨頂を見るようなシャシンだ。

 13世紀に建てられたイタリアの古い教会で、有名管弦楽団のリハーサルが行われることになった。この教会は響きの良さで知られており、しかもテレビ局が取材に来るという。写譜師の老人も演奏家たちも、高揚した気分で当日を迎えた。早速テレビの取材班は楽団員にインタビューを始めるが、ピアニストが“ピアノが楽器の中で一番優れている”と答えたのを切っ掛けに、各人が自分の担当する楽器こそが最高のものだと勝手気ままに主張し始める。収拾がつかなくなる状態で指揮者が到着するが、楽団員達の混乱が落ち着く気配はない。さらにはマネージャーと組合代表との口論も勃発。ブチ切れた指揮者は、ドイツ語で怒鳴り始める。



 この脈絡の無い筋書きに、何らかの意味付けをすることは可能だろう。たとえば、異論を受け付けないエゴイスティックな各キャラクターの態度に“混沌とした欧州情勢を重ね合わせた”とか何とか・・・・。しかしながら、本作は小賢しい勘ぐりを無視するかのように、パワフルに暴走する。

 そして後半の呆気にとられるような展開と、それに続く人を喰ったような終盤のオチの付け方には、大きなカタルシスを観客にもたらす。それは縺れた糸がスッキリと元通りになるような、あるいは肩凝りが一気に軽減するような、多分に生理的なものであろう。

 よく考えてみると、この“モヤモヤモした状況から見晴らしの良い地点に着地する”というのは娯楽映画のルーティンであり、作者はそれを忠実になぞったと言うことも出来る。変化球を駆使しながら、エンタテインメントの王道を忘れないフェリーニの異能ぶりが光っている。ニーノ・ロータによるスコアは万全だし、ボールドウィン・バースやクララ・コロシーモ等のキャストもイイ線行っている。
コメント
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