元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ハッピーエンド」

2018-03-19 06:43:55 | 映画の感想(は行)
 (原題:HAPPY END )観る前は、ミヒャエル・ハネケ監督がタイトル通りの“ハッピーエンド”の映画なんか撮るわけがなく、この題名は単なる皮肉だろうと思っていた。しかし、終わってみればこの監督には珍しく甘口の描写が目立つことが分かる。もちろん、内容はフツーの映画に比べると激辛なのだが、ハネケの考える“ハッピーエンド”とはこういうものだと得心した次第だ。

 13歳のエヴは離婚した母と二人暮らしだったが、情緒不安定で小言ばかりの母親を鬱陶しく思い、劇薬を飲ませて“始末”する。彼女はフランス北部のカレーに住む父親トマのもとに引き取られるが、そこは大手ゼネコンを一代で築き上げた祖父ジョルジュの豪邸だった。伯母のアンヌは引退したジョルジュの後を継いで社長の座に就いていたが、彼女の息子で専務のピエールは無能なロクデナシだ。



 ある日、ジョルジュは自殺未遂を引き起こす。何とか回復するものの、その後彼はボケたふりをして周囲を煙に巻く。やがて暗い影のあるエヴに自身と通じるものがあることを感じたジョルジュは、秘密にしていた今は亡き妻との関係をエヴに話し、彼女に揺さぶりを掛ける。

 エヴの母親に対する仕打ちやジョルジュの過去の行為は反社会的だが、それ以外は不思議とハネケ作品特有の鬼畜なモチーフは出てこない。通常の彼の仕事ぶりだったら、たとえばトマが新しい妻との間にもうけた赤ん坊はエヴに殺され、邸宅の使用人であるモロッコ移民の家族は悲惨な目に遭い、ラスト近くのアンヌの再婚パーティーの席上では血の雨が降るところだ(爆)。

 ただし、ハネケ監督はいつものインモラルな素材の代わりに、今回はSNSを大々的にフィーチャーしている。たとえ直に接すれば忌避感のある血染めの現場でも、ネット越しに見れば“単なるネタ”になってしまう。そういう昨今のトレンドの不条理性を強調しているように見えるが、残念ながら70歳を超えたこの監督にとって、新しいメディアの扱い方は多少荷が重かったようで、見る者を慄然とさせる異常性の描出には至っていない。



 例によって、大半の登場人物はロクな奴ではなく、その無様な言動の捉え方には容赦していないが、そこは題名が示すように決して“(究極の)バッドエンド”にはならないところが御愛敬と言えるかもしれない。

 ジャン=ルイ・トランティニャンとイザベル・ユペールの起用は、「愛、アムール」(2012年)の続編を想起させる。マチュー・カソヴィッツやフランツ・ロゴフスキも好演。エヴ役のファンティーヌ・アルドゥアンも実に根が暗そうで、作品のカラーに合っている(苦笑)。クリスティアン・ベルガーのカメラによる海沿いの風景はとても美しい。
コメント
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