元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ローズの秘密の頁(ページ)」

2018-03-03 06:30:25 | 映画の感想(ら行)

 (原題:THE SECRET SCRIPTURE)舞台背景はリアルであるにも関わらず、無理筋の展開が目立ち、愉快になれない。先日観た「THE PROMISE 君への誓い」も歴史的バックグラウンドはシビアながら、扱っているネタがメロドラマなので大時代な筋書きも許されたが、本作は正攻法の人間ドラマを狙っていたのだから、もっと脚本を詰めるべきだった。

 80年代のアイルランド。精神科担当のグリーン医師は、取り壊し予定のロスコモン州の精神病院から転院する患者たちを診察していた。その中に、赤ん坊殺しの罪で精神障害者として約40年も病院に収容されている老女ローズがいた。彼女は罪を否認し続け、愛用の聖書のページに密かに日記を書き続けていた。病棟の移転当日に最後まで居残ったローズから、グリーンは身の上話を聞くことになる。

 かつての夫であるマイケルとの短くも幸せな日々、そして突然襲った不幸で彼女の人生が暗転したこと、そしてグリーン自身も無関係ではいられない重大な秘密が明らかになる。セバスチャン・バリーによる小説(翻訳版未発行)の映画化だ。

 英国軍のパイロットとして従軍したマイケルが乗った軍用機が撃墜され、それまで住んでいた村に“偶然に”不時着するという噴飯物のエピソードをはじめ、入院させられたローズが脱出し、冷たい海水を泳いで浜に着いたら出産したという乱暴なプロットなど、御都合主義が散見される。極めつけはラストの“オチ”で、まさに牽強付会の最たるものだ。

 戦時中のイギリスとアイルランドの確執および宗教対立、封建的な土地柄で神父さえも信用ならないという閉塞した状況など、その時代の空気感は上手く出ているのだと思う。だが、そんな逆境を前提条件にすればヒロイン達は何をやっても許されると言わんばかりの製作スタンスには、鼻白む思いである。ジム・シェリダンの演出は「マイ・レフトフット」(89年)や「父の祈りを」(93年)といった初期の作品と比べると、パワーが感じられず平板だ。

 それでも、ローズを演じるヴァネッサ・レッドグレイヴとルーニー・マーラのパフォーマンスは評価できる。特にマーラはアメリカ人ながら、ヨーロッパの女優にしか見えないほどのしっとりとした雰囲気を醸し出していて絶品だ。グリーン医師に扮するエリック・バナやマイケル役のジャック・レイナーも味わい深い演技だ。ミハイル・クリチマンのカメラによる美しい映像と、ブライアン・バーンの音楽も申し分ない。それだけに、練られていないシナリオとメリハリを欠く展開は残念だ。
コメント
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