元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「迷走地図」

2018-03-23 06:38:17 | 映画の感想(ま行)
 83年松竹作品。野村芳太郎監督による松本清張の小説の映画化ながら、このコンビのそれまでの諸作に比べると、クォリティは落ちる。それはひとえに、松本清張の原作が(通常の)犯罪ドラマではなく、多数の登場人物が交錯するブラックな群像劇に近いことが原因だろう。こういう題材には大風呂敷を広げるのが得意な海千山千の演出家が担当するにふさわしいのだが、どう考えてもスクエアな作劇が身上の野村監督にはマッチしていない。結果として、要領を得ない隔靴掻痒な出来に終わったのも仕方がないと思わせる。

 与党の第二派閥の領袖である寺西正毅は、次期首相の座を確実視されていた。彼を支えていたのは妻の文子の“内助の功”と、私設秘書の外浦卓郎である。ところが、この2人は不倫関係にあり、寺西の目を盗んでは逢瀬を重ねていた。総裁選を控え、いよいよ現首相の桂から政権の禅譲を受けると思っていた寺西だが、ここにきて桂は総理の座に執着するようになる。



 アテが外れた寺西は、第三派閥の板倉派を抱き込むために関西財界の有力者から20億円もの融資を引き出す。しかし、板倉派は寺西の思うようには動いてくれず、逆に桂派へ秋波を送るようになる。そんな中、外浦が財界の大物から東南アジアの会社に招かれているとの理由で突然辞任。また、外浦の友人で政治家相手の代筆業をしている土井が謎の死を遂げるなど、ますます事態は寺西にとって面白くない方向に転がってゆく。

 派閥の親玉たちをはじめとする政治家連中や、マスコミや財界人などバラエティに富んだ面子が登場してのドライな政争を扱っているように見えて、プロットの要所を占めるのは件の不倫騒ぎやホステスを介しての“色仕掛け”だったりと、扱われているモチーフは随分と下世話だ。

 ならばそれらを冷ややかに笑い飛ばすほどの底意地の悪いタッチを作品に求めたくなるが、どうにも野村の演出は面白みがない。それぞれのネタは深く突っ込まれることなく表面をなぞるばかりで、終盤には登場人物の“真相は藪の中さ”というお決まりのセリフで片付けてしまうあたり、大いに脱力してしまう。

 寺西役の勝新太郎をはじめ、岩下志麻、松坂慶子、渡瀬恒彦、宇野重吉、伊丹十三、大滝秀治とキャストは豪華なのにもったいない。なお、このようなフィクションよりも、総理夫人の奔放な言動に政官共に振り回されている現在の状況の方が、よっぽどブラックだ。まさに“事実は小説(および映画)よりも奇なり”である。
コメント
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