元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ボブという名の猫 幸せのハイタッチ」

2017-09-25 06:27:28 | 映画の感想(は行)

 (原題:A STREET CAT NAMED BOB)一見、とても心温まる話のようだが、あちこちに“実話なんだから、細かいところは大目に見てよ”というエクスキューズが感じられ、諸手を挙げての評価は出来ない。ただし、猫好きにとってはたまらない映画であることは確か。大して猫に興味が無い私でも、ボブとハイタッチをしたいと思ったほどだ(笑)。

 ロンドンの街角で歌うジェームズは、かつてはプロのミュージシャンを目指していたが挫折し、薬物におぼれている。何とか更正プログラムを受けてはいるが、家族にも見放されてしまった。そんな彼のもとに迷い込んできた一匹の猫。元の飼い主を探してみるが見つからず、彼はボブと名付けて一緒に住むようになる。それからはジェームズが外出する時でもボブは彼の肩に乗り、次第に世間の注目を集めるようになると共に、ジェームズ自身も立ち直る切っ掛けを見出していく。ジェームズ・ボーエンによる実録小説の映画化だ。

 映画を観る限りでは、主人公が再生したのはボブが可愛かったからとしか思えない。彼の歌や才能によるものではないのだ。猫を飼うだけでホームレスが救われるのならば、不遇な生活を送っている者はすべてそうすれば良い・・・・というわけでもないだろう。本当は、いろいろな要因があったに違いなく、彼を取り巻く人々も多彩だったのだろうと想像する。しかし、それらは描かれない。

 ジェームズの面倒を見てくれるソーシャルワーカーや、隣室の若い女との交流も映し出されるが、彼女達だけでは主人公の屈託を埋めるには足りない。主人公を“捨てて”別の女と再婚する父親の扱いは、事実なのかもしれないが、随分と芝居がかった演出だ。娯楽映画としてまとめるために、都合良く原作を書き換えたという印象を受けてしまう。

 ただ、薬物乱用のために野垂れ死んでしまうジェームズの友人のエピソードは衝撃を受けるし、治療のため麻薬の代用物を与えるといった描写は興味深い。監督のロジャー・スポティスウッドは活劇作品での仕事が目立つが、こういう小品も手掛けられるというのは意外だった。

 主役のルーク・トレッダウェイは好演。ルタ・ゲドミンタスやジョアンヌ・フロガットといった脇の面子も良い。そして何よりボブの存在感が圧倒的。複数の猫によって演じられているが、ボブ自身も出ているという。いずれも堂々たるパフォーマンスである。ジェームズが歌うナンバーは正直言って大したことはないが、デビッド・ハーシュフェルダーによる音楽(BGM)は悪くないと思う。ピーター・ウンストーフのカメラによる、ロンドンの下町の風景も捨てがたい。
コメント
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