元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ガス・ステーション」

2017-09-30 06:30:46 | 映画の感想(か行)
 (英題:A Gas Station )アジアフォーカス福岡国際映画祭2017出品作品。2016年製作のタイ映画である。いかにもインディ系らしい風変わりな設定と風変わりな筋書きに開巻当初は面食らうかもしれないが、映画の進行に伴い徐々に普遍的なドラマの骨格が姿をあらわし、最後はしっかりと感動させるという、心憎い構成が印象的な作品だ。

 荒野の真ん中に建つガソリンスタンドを一人で切り盛りしているマンの元には、彼に想いを寄せる2人の女が毎日のように訪れてくる。いつも場違いな赤いドレスを纏っている中年女性マットと、毎回異なる衣装で現れるコスプレ女子高生のフォンだ。2人は何とかマンの気を惹こうと躍起だが、実は彼は結婚していた。しかし妻のノックは数年前に家を出たきりだ。



 ある日、ノックは突然マンの元に戻ってくる。久々の再会に喜ぶ彼だが、しばらくするとまた彼女は姿を消す。彼女はそんなことを繰り返し、何度目かの帰宅時に明らかにマンの子供ではない幼い娘を連れてくる。それでも娘はマンやフォンに懐くが、思わぬ悲劇が起きる。そして、登場人物達のシビアな過去や胸に抱く屈託が明らかになってくる。

 何となくパーシー・アドロン監督の「バグダット・カフェ」(87年)を思わせる御膳立てだが、あの映画のように出てくるキャラクターが浮き世離れしているわけではない。言動が多少変わっていても、ガソリンスタンドに集う者達にはそれぞれ切迫した“事情”がある。しかも、その“事情”は決して独りよがりではなく、運が悪ければ誰にでも降りかかってくる災難だ。

 彼らが悩みに向き合い、一つ一つ折り合いを付けていく中盤以降の展開は、説得力がある。特に前半はコミカルな掛け合いが続くマンとノックが、その裏に深刻なトラウマを抱えていることを表出していくプロセスは見事だ。監督のタンワリン・スカピシットはインディ系とメジャー系とを行き来し、その度に双方のメリットを吸収しつつ製作活動を続けているらしく、そのスタンスはスノッブなタッチになりがちな設定を持つ本作を、万人にアピールする作品に昇華させているあたりに見て取れる。

 キャストは皆好演。フォンに扮したアーパー・パーウィライ(通称マギー)は監督と共に舞台挨拶に出てきたが、間近に見ると本当に可愛い。また、劇中で彼女が見せるアニメのコスプレや、重要なモチーフになる折鶴など、日本のカルチャーの影響を改めて認識出来る。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする