元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「夏の別れ」

2017-09-10 06:47:33 | 映画の感想(な行)
 81年作品。高名な脚本家である中島丈博が設立した“中島丈博ぷろだくしょん”の第一回作品だが、第二回以降の話を聞いたことがないので、このプロジェクトは自然消滅したのだと思う(間違っていたらゴメン)。そのことを暗示させるように、何とも気勢の上がらない出来だ。

 湘南海岸の近くに住む18歳の浩は、高校卒業後も目的がなく毎日ブラブラしている。彼の楽しみは当てもなく海を泳ぐことだが、ある日沖に浮かぶ豪華なヨットの上で、白昼堂々と睦み合う男女を目撃する。その神々しいまでの存在感に圧倒された浩は、自分も“ヴィーナス”みたいな相手を探したいという無謀な願望を抱く。だが、その“ヴィーナス候補”は意外に早く現れる。それは、ひょんなことから知り合った売れっ子モデルの響子だった。身の程も知らずにアタックを開始する浩だが、彼女をよく知るルポライターの俊介はいい顔はしない。やがて事態は思わぬ展開を見せる。



 暑苦しい浩の家庭の状況を狂騒的なタッチで映し出した冒頭から、大海原を泳ぐ浩の画像に切り替わるタイミングは絶妙。しかし、良かったのはこの部分だけ。勝手な思い込みで無鉄砲な行動を続ける浩には共感できないし、響子と俊介との関係性も、思わせぶりだが実質的に何も描かれない。だから終盤の暗転もインパクトが小さく、若造の成長ドラマにもなっていない。監督はこの作品がデビュー作となる東映出身の井上眞介だが、これ以降もあまり目立った仕事はしていないようだ。

 ただ、響子を演じる萬田久子の放つ独特のオーラだけは印象的だった。これが彼女の実質的なデビュー作で、演技面では見るものは無いが、目を離せないヤバそうな雰囲気はこの頃から健在だった。それに比べれば、主役の安藤一夫をはじめ麻生えりか、五十嵐めぐみといった面々はどうでも良い。滝田栄や佐々木すみ江、井川比佐志、平田昭彦といったベテランも出ているのだが、持ち味が出ていたとは言い難い。

 そういえば本作は別の映画との二本立て上映だった(配給は東映系)。昔は注目作の興行の合間に、こういう(穴埋め的な)カップリングの番組もあったことを思い出す。今では考えられないことだ。
コメント
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