元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ラテンアメリカ 光と影の詩」

2017-07-02 06:35:00 | 映画の感想(ら行)
 (原題:El Viaje)92年作品。監督は「タンゴ ガルデルの亡命」(85年)「スール、その先は・・・愛」(88年)で知られるアルゼンチンの異能フェナンド・E・ソラナス。軍事政権に抵抗してアルゼンチン南部からペルーに逃れた父親を追って南米大陸を縦断する少年を描くロード・ムービーだ。祖国へのオマージュを前衛的手法と独特の映像美でコラージュしてきたソラナスだが、ここでは明確なストーリーを追っているためか珍しくわかりやすい。ただし“ソラナス作品としては”という注釈付きではあるが・・・・。

 主人公はマゼラン海峡を渡りパタゴニアへ。そこではイギリスの石油資本が土地を半植民地化している様子が描かれる。そしてブエノスアイレスへ行くが、洪水で水没している。そこでチリからの亡命者と会い、独裁政治退陣後も逼迫している国情を訴える。ボリビアからペルーへ。悲惨としか言いようのない貧困の中にいる住民の姿が映し出され、次に行くブラジルでは対外債務で首が回らない国家情勢が、パナマではアメリカとの戦争で疲弊しきった国情が描かれる。まさに地獄めぐりのロード・ムービーだ。



 ソラナス監督得意のシュールな画作りは健在だ。水没した街に暮らす人々や、廃虚のような学校でプロパガンダ教育を受ける学生たち、国民に拘束帯を付けるように訴えるテレビ、ジャングルの中で微笑む美少女、主人公の父親(作家でもある)が描く物語に登場する英雄がアニメーションとなって画面にあらわれるetc.

 この技法は凡百の作家が使うと意図するものがミエミエになってシラけるところだが、切迫した作者の確信犯ぶりは観客の冷笑的な態度を許さない。なぜなら、ここに描かれることは(多少の誇張はあれ)すべて事実であるからだ。ラテンアメリカほど西欧列強(古い言葉だな)の蹂躙と搾取を強いられている場所はないのである。

 ペルー奥地には未だに奴隷制同然の労働環境が存在すること、アルゼンチンが借金のカタに領土を切り売りしていること、そしてアメリカのパナマ介入の真相だ。この政治的フィルムを少年の成長をからめたロード・ムービー仕立てにしたのは正解で、さわやかな青春映画の雰囲気が重苦しい題材を中和し、誰にでも楽しめる娯楽作に仕上がった。ただ、反動勢力は気に入らなかったらしく、映画の公開後ソラナスは暗殺未遂に遭っている。ロベルト・マシオのカメラが捉える茫洋とした南米の大地は強いインパクトを残す。アストル・ピアソラの音楽が美しさの限りだ。
コメント
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