元・副会長のCinema Days

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「おじいちゃんはデブゴン」

2017-07-15 06:21:50 | 映画の感想(あ行)

 (原題:我的特工爺爺)タイトルだけ見るとお手軽なアクション・コメディだと思われがちだが、中身はけっこうシリアス。そしてR15に指定されているように、エゲツない描写も目立つ。主人公の体格と同じように、観た後はずっしりと重みを感じてしまう一編である。

 66歳のディンはかつては人民解放軍の中央警衛局で要人警護の任に就いていたが、退役後はロシア国境に近い中国北東部にある故郷の町、綏鎮市で一人で暮らしている。彼は最近物忘れが激しく、医師から認知症の初期症状と診断され、元より気難しい性格が昂進してあまり他人と口をきかなくなっている。彼が心を許しているのは隣家に住む少女チュンファだけだが、彼女の父親レイは借金まみれで女房にも逃げられ、高利貸しを営むヤクザからの無理難題を受け入れざるを得ない立場に追い込まれている。

 レイに押し付けられた仕事は、ウラジオストクでロシアン・マフィアの財宝を奪うというものだった。一応成功はするが、途中でレイは逃走。ヤクザ組織は、チュンファを誘拐してレイをおびき出そうとする。また、宝石類を追ってロシアン・マフィアの殺し屋どもが町に乗り込んでくる。ディンはチュンファを救うため、封印されていた必殺拳を繰り出して悪者達に立ち向かっていく。サモ・ハン・キンポーが久々に主演と監督を兼ねた活劇編だ。

 ディンの過去はシビアだ。軍では海外の元首の警護も担当したほどの実力者ながら、愛のない結婚をして、やっとできた娘とは折り合えない。それでも孫娘は懐いてくれたが、彼女との外出時にはぐれてしまい、とうとう孫娘は行方不明のままだ(いかにも幼児の誘拐が日常茶飯事の中国らしい)。当然、娘とは縁を切られ、北京を追われて田舎町でひっそりと余生を送るしかない。さらに辺境の地にはゴロツキや、レイのように食い詰めた連中があふれている。

 斯様に舞台背景がリアルなので、年寄りが大暴れするという荒唐無稽な話も、違和感があまりない。格闘シーンは一見するとスローで地味だが、実は主人公の体格を活かした効果的な戦い方であることが分かる。特に体重を乗せて相手の関節を次々とヘシ折っていく技は、クンフーではなくリアルな“暴力”そのものだ。殺伐とした雰囲気の中で、ディンとチュンファとの心温まる関係性が描かれる。このコントラストの創出は見上げたものだ。

 レイ役にはアンディ・ラウ、さらにはツイ・ハークとユン・ピョウまで顔を揃えるという贅沢なキャスティング(サモ・ハンの人脈によるものだろう)。ウラジオストクの街並みや綏鎮市の雑然とした風景、そして住民たちの描写も興味深く、思わぬ拾い物の作品と言える。
コメント
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