元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「アイアムアヒーロー」

2016-04-29 06:38:26 | 映画の感想(あ行)

 作りが下手だ。面白くなりそうなモチーフは早々に捨て去られ、あとは過去のゾンビ映画のネタを堂々と流用。脚本も穴だらけだ。いくらお手軽なパニック・ホラー編とはいえ、もうちょっとマジメに撮って欲しいものである。

 主人公の鈴木英雄はかつて出版社の漫画コンテストで受賞した経験もあるのだが、35歳になる現在も売れず、傲慢な漫画家のアシスタントとして細々と生計を立てている。ある日、同棲していた恋人が体調を崩し、そのままZQN(ゾキュン)と呼ばれるゾンビになって英雄に襲いかかる。

 何とかその場を切り抜けた彼だが、気が付けばあたり一面にZQNが溢れ、すでに政府も自衛隊も壊滅しているようだ。“標高の高い場所ではZQNは活動できない”という噂を頼りに、道中で知り合った女子高生の比呂美と共に富士の裾野のショッピングモールにたどり着いた英雄だが、そこでは伊浦という青年が“恐怖政治”を敷き、避難民を支配していた。英雄は食料調達の先兵にされてZQNの群れの中に乗り込むハメになるが、安全だと思われた伊浦たちのアジトにもZQNが押し寄せ、絶体絶命のピンチに陥る。

 冒頭、冴えない生活を送る主人公の日常が紹介され、そこに非日常が浸食していくという筋書きになるのだが、そのプロセスが早急に過ぎる。ここをじっくりと描き込めば、よりインパクトが強くなったはずだ(そのために後半のパニック場面が少々削られても構わない)。また、赤ん坊のゾンビに噛まれて“半ZQN状態”になった比呂美が前半に人間離れしたパワーで英雄を救う場面があるのだが、何と彼女が“活躍”するのはそこだけで、あとは“寝たまま”だというのには呆れ果てた。

 ゾンビ化した英雄の恋人は実に不気味な動きをして観る者を驚かせるものの、これ以後ZQNがそういうアクションをする場面は無い。このように重点的に描けば盛り上がるような箇所は放置され、町中でZQNが暴れ回るシーンや中盤以降でショッピングセンターでのバトルや仲間内での裏切り、といった“どこかで観たような場面”ばかりが並べられる。

 そもそも、しがない漫画家のアシスタント風情がライフル射撃の名手だという設定に無理があるのではないか。今は不遇だが実は昔警官だったとか元外人部隊とか、あるいは元ヤクザのヒットマンとか、そういうシチュエーションにした方が違和感が少ない。

 ZQNの生態はハッキリとせず、素早く動ける奴もいれば“従来型のゾンビ”みたいにゆっくりとしか歩けない奴もいるし、ZQN化するプロセスも映画が進むにつれて都合良く変えられていたりする。ほかにも“高速道路上の事故に巻き込まれてもかすり傷一つ負わない主人公達”をはじめ、いい加減な作劇が満載。取って付けたようなラストの脱出劇も鼻白むばかりだ。

 主演の大泉洋はいつも通りの演技。主人公と共闘する元看護婦に扮した長澤まさみもいつも通りの仕事ぶり。比呂美役の有村架純もいつも通り可愛い(笑)。あとの面子は語る価値無し。佐藤信介の演出は特筆できるものが見当たらないし、あえて劇場で観る必要は無いシャシンだと断言してしまおう。
コメント
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