元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「僕だけがいない街」

2016-04-03 06:35:08 | 映画の感想(は行)

 脚本が壊滅的だが、一部に見応えのある場面があり、単純に駄作として切って捨てるのは忍びない。どんなに優れていると思われる作品でも少しの瑕疵で許せなくなることもあれば、つまらない映画でもわずかに光る部分があれば印象深くなることもある。これだから映画鑑賞は面白い。

 主人公の藤沼悟は一応漫画家だがまったく売れず、生活のためにピザ屋でアルバイトする毎日だ。実は彼には“リバイバル”という特殊な能力があった。それは、周囲で重大な事件や事故が起きると、いつの間にかその数分前に時間が戻り、そのトラブルの原因を取り除くまで何度でも繰り返すというものである。その日も配達途中でリバイバルが発動し交通事故を未然に防いだ彼だが、自分が大ケガを負ってしまう。

 同僚の愛梨や上京してきた母の看病で何とか回復していくが、今度は母親が何者かに殺害される。当然のことながらリバイバルが起きるものの、今回はなぜか数分前ではなく18年前だった。どうやら母親が災難に見舞われたのは、悟が子供の頃に起こった小学生連続誘拐殺人事件が関係しているらしい。犠牲者の中には悟の同級生も含まれている。彼は事件を防ぐために奔走するのだった。三部けいによる同名コミック(私は未読)の映画化である。

 リバイバル現象は自分が被るトラブルに関しては発生しないようなのだが、そのあたりの説明が無いのは不親切。母親が殺された現場を見た後の悟の行動は、わざと自身が疑われるように仕向けているとしか思えない。しかも、タイミング良く愛梨が駆けつけてくる(苦笑)。

 愛梨はなぜか親戚の家に居候しているのだが、その事情は“いろいろあって”という一言で片付けられてしまう。ピザ屋の店長は謎の行動を取るし、そもそも犯人らしき人間が都合よくピザ屋に出入りしていたという設定は噴飯ものだ。18年前の悟の“運命”はウヤムヤになり、終盤の主人公と犯人の“対決”シーンのお粗末さに至っては脱力するしかない。

 しかし、子供時代の悟が同級生を救おうとするくだりに限っては、かなり盛り上がる。犠牲になるはずだった同じクラスの加代は、身持ちの悪い母親とその愛人から酷い虐待を受けていた。教師も児童相談所もあてにならない。悟は母親や友人達と協力して事に当たるのだが、タイムリミットが迫る中で次々と難関が立ちはだかる。サスペンスフルな展開に加え、虐待の描写がリアルで、ここだけ社会派の映画のような重みがある。この部分を膨らませて全編を再構築したら、ひょっとしたら上質の作品になったかもしれない。

 平川雄一朗の演出には特筆するようなものは無い。主役の藤原竜也は“いつもの通り”の演技である。母親役の石田ゆり子は若く見えすぎて不自然。対して鈴木梨央や中川翼らの子役陣はかなり達者。彼らの活躍が無かったら“観る価値ゼロ”と断定していただろう。なお、愛梨に扮する有村架純はパッと見た感じは“普通に可愛い”というレベルだが、仕草や表情などを加点すると“すごく可愛い”という次元にグレードアップする(笑)。仕事がコンスタントに入ってくるのも当然だと思った。
コメント
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