元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「グランドフィナーレ」

2016-04-22 06:29:22 | 映画の感想(か行)

 (原題:YOUTH )ラストで響き渡る主題歌「シンプル・ソング」は素晴らしい。曲調はもちろん、ソプラノのスミ・ジョーとヴァイオリンのヴィクトリア・ムローヴァという一流プレーヤーを配した演奏陣のパフォーマンスは、まさに音楽の持つ力を底の底まで掘り下げ、鮮烈な感動を観る者に与える。しかし、この映画で良かったのはこのパートだけなのだ。あとは観る価値は無い。

 アルプスの高級スパ・リゾートホテルに滞在している老作曲家フレッドのもとに、英女王からの勲章の授与と出演のオファーが届く。しかし、自分はもう引退した身であるからと、申し出を断る。そのホテルにはかつては名声を欲しいままにした元サッカー選手や、それなりの実績はあるが昔主演して大ヒットしたヒーロー映画の役名で今でも呼ばれることにウンザリしているハリウッドの役者、そしてフレッドの60年来の親友である映画監督のミックらが宿泊していた。

 ミックは若いスタッフたちと新作の企画を練っていたが、主演予定のベテラン大物女優のブレンダからは良い返事がもらえない。そんな中、フレッドは同行していた娘のレナがミックの息子にフラれたことを知る。それはミックにとっても初耳で、驚いた彼は息子を呼び出すが、彼は新しい恋人を連れて来て仲の良さを見せつけるばかり。フレッドはレナを慰めようとするが、仕事一筋で家庭を顧みなかった父親に心を開こうとはしない。そこで彼は「シンプル・ソング」にまつわる妻への想いを初めて打ち明ける。

 一線を退いた音楽家と往時の才覚が失われつつある監督が、昔日の想いに捉われつつも現在の状況に折り合いを付けるまでを描く。当然、そのため2人の心象風景的なショットが大々的にフィーチャーされるのだが、これが退屈極まりない。

 たとえば、フレッドが牧場の前で“指揮棒”を振ると、牛の鳴き声や風の音、鳥のさえずり等が一大シンフォニーになって響き渡る場面では作者のドヤ顔が見えてくるようだが、残念ながらタイミングと見せ方が凡庸で、寒々とした空気が流れるだけだ。また、失意のミックが見る過去に自分が手掛けた作品のキャラクターたちが草原に一堂に会する幻想シーンも、段取りが平板で画面の奥行きも感じられず、観ていてシラけてしまう。斯様な具合で年寄り2人のグチめいた映像スケッチが延々と並べられ、加えて他の宿泊客のどうでもいいような思わせぶりな言動がワザとらしく被さってくる。

 監督のパオロ・ソレンティーノはフェデリコ・フェリーニら往年のイタリアの巨匠の影響を受けていることは間違いなく、ラストクレジットに至っては“フランチェスコ・ロージに捧ぐ”というフレーズまで出てくるのだが、彼の力量は名監督達の足元にも及ばず、単にモノマネ(のようなもの)を披露しているに過ぎない。

 マイケル・ケインにハーヴェイ・カイテル、レイチェル・ワイズ、ポール・ダノ、そしてジェーン・フォンダという豪華なキャスティングも虚しい。ただ、アルプスの風景は大層美しいので、観光映画としてはそこそこ評価されよう。
コメント
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