元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ルーム」

2016-04-17 06:46:35 | 映画の感想(ら行)

 (原題:ROOM)あまりにも薄味で突っ込み不足。手応えが無さすぎる。本来描くべきポイントは手抜きされ、作者が描きたいと思っていたであろう部分は言葉足らずのために説得力を欠く。聞けばいくつかの映画賞を獲得しているらしいが、その高評価もにわかに信じがたい。

 若い女ジョイと5歳になる息子のジャックは、狭い部屋で暮らしていた。実はジョイは7年前に男に誘拐され、それからずっと部屋に閉じ込められているのだ。ジャックは誘拐犯に乱暴された結果、産まれた子供である。ある日、ジョイは一計を案じ、ジャックに死んだふりをさせて犯人に部屋の外に運び出させることに成功。すぐさま逃げ出したジャックは警察に保護され、監禁部屋の存在も明るみになり、犯人は逮捕。ジョイも無事救出される。だが、7年ぶりに帰宅すればジョイの父親は家を出ており、母親は別の男と暮らしていた。何もかも変わった状況に彼女は戸惑いを隠せない。当然のことながらジャックも外界に慣れるのに時間が掛かり、加えてマスコミや世間からの好奇の目にさらされる。アイルランド出身の作家エマ・ドナヒューの同名ベストセラー小説の映画化で、ドナヒューは脚本も担当している。

 犯人はどうやって7年もの間、ヒロインを監禁できたのか。どのように出産に対応したのか。閉じ込められていた場所は人里離れた土地ではなく一般の住宅地だが、近所の者に勘付かれる危険性は無かったのかetc.そういうことには一切触れられていない。

 ジョイがジャックの死を告げたとき、なぜ犯人はそれを良く確かめなかったのか。最初に対応した警官は、ジャックからの数少ない情報でどうやって犯人宅を突き止めたのか。ジャックが逃げた直後、焦った犯人はなぜジョイに危害を加えなかったのかetc.そういったことも説明していない。もちろん、犯人のプロフィールも全然紹介されない。要するに犯罪ドラマとしてのプロットは穴だらけだ。

 ならばこの親子が救出されてからのプロセスはどうかというと、何とも煮え切らない。二人の葛藤が、型通りなのだ。定石通り悩み、定石通り周囲と衝突し、定石通り自暴自棄になるが、これまた定石通り立ち直る。作者としてはこの部分を重視したかったようだが、斯くの如く筋書きが腰砕けで話にならない。

 特に、ピンチに陥ったジョイがジャックの髪の毛の束を貰っていつの間にか回復してしまうくだりは、あまりの安直さに脱力した。かと思えば母親の新しい交際相手は何の屈託も無くジャックと打ち解けてしまうし、そもそもヒロインの家庭は元々裕福で、あまり切迫した印象を受けないのも辛い。

 レニー・アブラハムソンの演出は平凡。本作でオスカーを獲得した主演のブリー・ラーソンは熱演ではあるが、正直言ってある程度のスキルを持つ俳優ならば誰でもやれる仕事だと思う。父母役のジョアン・アレンとウィリアム・H・メイシーは堅実に役をこなしているが、それほどドラマ面でクローズアップされていないのは不本意だっただろう。

 唯一目立っていたのがジャックに扮したジェイコブ・トレンブレイで、見た目の可愛らしさに加えて演技のカンも良く、今後も注目される子役だと思う。もっとも、アチラの映画界では有名になりすぎた子役が成長して身を持ち崩すケースは少なくないので、注意して欲しい(苦笑)。
コメント
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