(原題:JACOB'S LADDER)90年作品。エイドリアン・ライン監督は80年代から90年代初頭まで話題作を連発したが、今世紀に入ってめっきり仕事も減り、長らく開店休業状態に追い込まれていた。やはり、スタイリッシュな“外観のみ”を売り物にする作家は賞味期限が短いのであろう。本作は彼の脂の乗りきっていた時期に撮られており、最後まで飽きさせない求心力は感じられる仕上がりだ。
ベトナム帰りのジェイコブは、突然ニューヨークの地下鉄の車内でかつての戦場の記憶が蘇り、それ以来彼の日常には奇妙な幻覚が交錯するようになる。恋人のジェジーは“気のせいだろう”と取り合わないが、症状は酷くなるばかりだ。ジェイコブはかかりつけの医師に相談しようとするが、なぜか医師は既に死亡しており、彼のカルテも紛失している。かつての戦友ポールに会うと、彼もまた同じ幻覚に悩まされており、やがてジェイコブと同じ隊だった者たちが全員悪夢を体験していることが明らかになる。そんな彼の前にマイケルという怪しい医者が現われ、原因は当時の軍が開発したラダーと呼ばれる幻覚剤によるもので、ジェイコブの隊はその実験台にされたという事実を告げる。政府当局から口封じのために命を狙われるようになったジェイコブは、友人のルイの助けを得て、必死の脱出を試みる。

政府の陰謀を巡るサスペンス劇は、実は大して面白くもない。ありがちな素材であり、ありがちな筋書きを追うのみだ。しかしながら、夢と現実とが交差したようなモチーフの波状攻撃は、目を離せない。
たとえば別れたはずの妻のベッドで目覚めたジェイコブが、ジェジーと同棲している夢を見たと言った途端、それもまた夢であったというようなパターンの繰り返しは、観る側にとって何が映画のメインストーリーなのか分からなくなる。だが、それが決して独りよがりではなく、良くできたマジックのような“上質の幻惑感”を与えてくれるのはさすがだ。
しかも、重傷を負ったジェイコブが野戦病院に運ばれるという戦時中のエピソードが思わせぶりに挿入されるあたり、作劇上の仕掛けは二重・三重にも及んでいるらしいことは分かるが、あまりにもシビアな真相が内包されていることを暗示させ、なかなかのインパクトを与える。
最後は“意外な結末”になるが、アメリカにとって何の利益にもならなかったあの戦争を、イギリス人であるライン監督がシニカルに告発しているようで、見終わった後の苦い味わいは格別だ。
主役のティム・ロビンスは好演。エリザベス・ペーニャやダニー・アイエロ、マット・クレイヴンといった脇の面子も良い。ジェフリー・キンボールのカメラによるクールな画調と、モーリス・ジャールの格調の高い音楽も場を盛り上げる。
なお、ライン監督が久々に新作を撮るというニュースが流れている。得意のサスペンス編らしいが、どのようなスタイルに仕上がっているのか、少し楽しみだ。
ベトナム帰りのジェイコブは、突然ニューヨークの地下鉄の車内でかつての戦場の記憶が蘇り、それ以来彼の日常には奇妙な幻覚が交錯するようになる。恋人のジェジーは“気のせいだろう”と取り合わないが、症状は酷くなるばかりだ。ジェイコブはかかりつけの医師に相談しようとするが、なぜか医師は既に死亡しており、彼のカルテも紛失している。かつての戦友ポールに会うと、彼もまた同じ幻覚に悩まされており、やがてジェイコブと同じ隊だった者たちが全員悪夢を体験していることが明らかになる。そんな彼の前にマイケルという怪しい医者が現われ、原因は当時の軍が開発したラダーと呼ばれる幻覚剤によるもので、ジェイコブの隊はその実験台にされたという事実を告げる。政府当局から口封じのために命を狙われるようになったジェイコブは、友人のルイの助けを得て、必死の脱出を試みる。

政府の陰謀を巡るサスペンス劇は、実は大して面白くもない。ありがちな素材であり、ありがちな筋書きを追うのみだ。しかしながら、夢と現実とが交差したようなモチーフの波状攻撃は、目を離せない。
たとえば別れたはずの妻のベッドで目覚めたジェイコブが、ジェジーと同棲している夢を見たと言った途端、それもまた夢であったというようなパターンの繰り返しは、観る側にとって何が映画のメインストーリーなのか分からなくなる。だが、それが決して独りよがりではなく、良くできたマジックのような“上質の幻惑感”を与えてくれるのはさすがだ。
しかも、重傷を負ったジェイコブが野戦病院に運ばれるという戦時中のエピソードが思わせぶりに挿入されるあたり、作劇上の仕掛けは二重・三重にも及んでいるらしいことは分かるが、あまりにもシビアな真相が内包されていることを暗示させ、なかなかのインパクトを与える。
最後は“意外な結末”になるが、アメリカにとって何の利益にもならなかったあの戦争を、イギリス人であるライン監督がシニカルに告発しているようで、見終わった後の苦い味わいは格別だ。
主役のティム・ロビンスは好演。エリザベス・ペーニャやダニー・アイエロ、マット・クレイヴンといった脇の面子も良い。ジェフリー・キンボールのカメラによるクールな画調と、モーリス・ジャールの格調の高い音楽も場を盛り上げる。
なお、ライン監督が久々に新作を撮るというニュースが流れている。得意のサスペンス編らしいが、どのようなスタイルに仕上がっているのか、少し楽しみだ。