(原題:VALMONT )89年作品。何度も映画化されているコルデロス・ド・ラクロの古典的文学「危険な関係」だが、本作ではミロシュ・フォアマンがメガホンを取っている。確かにこの監督らしい絢爛豪華な舞台セットは一見の価値があるが、88年のスティーヴン・フリアーズ監督による映画化に堪能してしまった私としては、映画の内容は全くもって物足りない。期待はずれと言ってもいい。
18世紀フランス。未亡人メルトゥイユ侯爵夫人は、かつての恋人で名うてのプレイボーイ、ヴァルモン子爵と共謀し、自分を裏切った男の婚約者セシルの処女を彼に奪わせようとする。一方ヴァルモンは貞淑な人妻である法院長夫人を狙っており、セシルの方は、音楽教師とのかなわぬ恋に落ちていた。こうして、絡み合った恋愛関係の中で欲望と機略が渦巻き、物語は思わぬ方向へ進んでいく
思い起こせばフリアーズ版「危険な関係」は、まず配役が素晴らしかった。メルトゥイユ夫人にグレン・クロース、ヴァルモンにジョン・マルコヴィッチ、法院長夫人にミシェール・ファイファー、セシルにユマ・サーマンというキャスティングは、思い出しても鳥肌が立つ。加えて舞台劇を相当意識した実験的で思い切った演出と悲劇的な結末。スゴ味さえ感じさせた秀作であった。
しかし、今回の「恋の掟」でメルトゥイユ侯爵夫人に扮するのはアネット・ベニング。大の男を翻弄させる性悪女を演じるには、当時の彼女は可愛すぎるし、軽すぎた。ヴァルモン子爵のコリン・ファースにいたってはプレイボーイどころか単なる青二才だし、法院長夫人のメグ・ティリーにしたってふてぶてしい鈍感娘でしかない。キャスティングを間違えているのではないかと思ってしまった。
しかし、世紀末のデカダンを感じさせたフリアーズ版を追っても二番煎じになることはわかっていたはずで、フォアマン版として違うアプローチを見せていることは確かだ。原作より数十年さかのぼった設定にしており、暗さはなく、喜劇的要素さえある。壮絶な恋愛ドラマよりも、女たちに振り回される若者を描くオペレッタ調の軽妙な作品にしたかったということか。
でも、その程度では「アマデウス」のフォアマンがわざわざ取り上げる意味もさしてない。あまり深みもなく、映像以外はすぐに忘れてしまう。まあ、アネット・ベニングの“スケスケ浴衣の大股びらき”(なんちゅう表現だ)のシーンだけは十分印象に残ったけど・・・・。