(原題:Black Mass)盛り上がらないままエンドマークを迎える。先日観た「ブリッジ・オブ・スパイ」と同様、実話なのだから納得しろと言わんばかりの開き直りが愉快になれない。実録物だろうとフィクションだろうと、観客を楽しませる仕掛けが不可欠であるはずだ。
70年代のボストン南部。FBI捜査官のコナリーはアイルランド系ギャングを仕切っているジェームズ・“ホワイティ”・バルジャーに、共通の敵であるシシリアン・マフィアを協力して叩き潰そうと持ちかける。実は二人は幼なじみで、しかもバルジャーの弟は政治家なので多少の無理も利く。
捜査当局の上層部はこのプランに難色を示すが、すぐに実績を出したこともあり、静観することにした。ところが増長したバルジャーは逆にFBIを利用して法の網をかいくぐり、やがてこの地域の顔役にのし上がっていく。逆に彼を抑えられなくなったコナリーの立場は、次第に危うくなる。
冒頭、この一件で逮捕された容疑者達の供述から映画が始まるのだが、この方法はどう考えても利口ではない。ドキュメンタリー・タッチを狙ったのかもしれないが、主人公二人が子供時代からの付き合いだという設定が話のキモである以上、ここは彼らが少年だった時分から物語性たっぷりに描くべきではないのか。
同じ境遇で育ったはずなのに、一方は体制側の人間になり、もう一方は悪の道に入った。その“運命の分かれ道”に焦点をあてることが作劇上もっとも重要だったはずだ。ところが本作はそれを全くやっていない。二人のポジションがすでに確定された後に証文の出し遅れのごとく出来事を五月雨式に並べても、インパクトのかけらも無い。
しかも、さほど存在感の無い面子が次々に現れては、いつの間にか退場していくというパターンの繰り返し。そもそもバルジャーの悪事の全貌がはっきりと説明されず、口では街を仕切るほどの大物になったと言いつつも、実際はラスト近くになっても最初の頃と同じようなチンピラ風情にしか見えないのは辛い。加えて、凶悪犯の弟でも上院議員になれるというのが驚きだが、映画はこのことについても詳しくは言及しない。
スコット・クーパーの演出は平板で、メリハリは皆無と言って良い。血なまぐさいシーンもあるのだが、衝撃度はまるで不足している。バルジャーに扮しているのはジョニー・デップで、薄毛オールバックに革ジャン姿という気合いの入った出で立ちながら、何やらコスプレの一種にしか見えない。コナリーを演じるジョエル・エドガートン、バルジャーの弟役のベネディクト・カンバーバッチとキャスティングは意欲的ながら、演出側は十分に仕事をさせていない。良かったのは高柳雅暢のカメラによる寒色系の映像とトム・ホルケンボルフの音楽のみ。鑑賞後の印象は限りなく薄い。
70年代のボストン南部。FBI捜査官のコナリーはアイルランド系ギャングを仕切っているジェームズ・“ホワイティ”・バルジャーに、共通の敵であるシシリアン・マフィアを協力して叩き潰そうと持ちかける。実は二人は幼なじみで、しかもバルジャーの弟は政治家なので多少の無理も利く。
捜査当局の上層部はこのプランに難色を示すが、すぐに実績を出したこともあり、静観することにした。ところが増長したバルジャーは逆にFBIを利用して法の網をかいくぐり、やがてこの地域の顔役にのし上がっていく。逆に彼を抑えられなくなったコナリーの立場は、次第に危うくなる。
冒頭、この一件で逮捕された容疑者達の供述から映画が始まるのだが、この方法はどう考えても利口ではない。ドキュメンタリー・タッチを狙ったのかもしれないが、主人公二人が子供時代からの付き合いだという設定が話のキモである以上、ここは彼らが少年だった時分から物語性たっぷりに描くべきではないのか。
同じ境遇で育ったはずなのに、一方は体制側の人間になり、もう一方は悪の道に入った。その“運命の分かれ道”に焦点をあてることが作劇上もっとも重要だったはずだ。ところが本作はそれを全くやっていない。二人のポジションがすでに確定された後に証文の出し遅れのごとく出来事を五月雨式に並べても、インパクトのかけらも無い。
しかも、さほど存在感の無い面子が次々に現れては、いつの間にか退場していくというパターンの繰り返し。そもそもバルジャーの悪事の全貌がはっきりと説明されず、口では街を仕切るほどの大物になったと言いつつも、実際はラスト近くになっても最初の頃と同じようなチンピラ風情にしか見えないのは辛い。加えて、凶悪犯の弟でも上院議員になれるというのが驚きだが、映画はこのことについても詳しくは言及しない。
スコット・クーパーの演出は平板で、メリハリは皆無と言って良い。血なまぐさいシーンもあるのだが、衝撃度はまるで不足している。バルジャーに扮しているのはジョニー・デップで、薄毛オールバックに革ジャン姿という気合いの入った出で立ちながら、何やらコスプレの一種にしか見えない。コナリーを演じるジョエル・エドガートン、バルジャーの弟役のベネディクト・カンバーバッチとキャスティングは意欲的ながら、演出側は十分に仕事をさせていない。良かったのは高柳雅暢のカメラによる寒色系の映像とトム・ホルケンボルフの音楽のみ。鑑賞後の印象は限りなく薄い。