元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「人間失格」

2010-02-23 06:21:08 | 映画の感想(な行)
 やはりこの原作は映画化が難しい。かつて鈴木清順監督の「ツィゴイネルワイゼン」や「陽炎座」を製作し、自身もメガホンを取って「赤目四十八瀧心中未遂」という快作をモノにした荒戸源次郎の腕をもってしても、空振りに終わってしまうのだ。

 とにかくまずは主人公・大庭葉蔵の内面に迫らなければ話にならないが、これがまるで不発。映画作りにおいて当たり前のように語られる“登場人物の内面描写”というモチーフが、これほど重大な意味を持つ題材は他にあまりないと思うが、心象風景を並べたり、俳優の演技力に委ねるぐらいではとても追いつかない。



 葉蔵がどうして人の心が分からないようになったのか。なぜ道化を演じるのか。そして生まれてきたこと自体に罪悪感を抱くのか。それらの本質的な洞察について作者の全精力を動員させ、なおかつ主人公の個別的な苦悩を普遍的なテーマとして結実させるべく細心の注意を払わねばならない。ところが、この映画は最初から白旗を揚げているようなのだ。主演に(ジャニーズ事務所の)生田斗真とかいう、顔は良いけど演技面ではまったくの大根を持ってきた時点で、作者の“投了モード”が横溢している。

 あとは鈴木清順のモノマネみたいなケレン味たっぷりの映像的ギミックの羅列。確かにキレイだが、この太宰治の著名な小説の映画化でそんなことばかりして何になるのか。さらには原作に出てこない中原中也まで意味もなく登場するに及び、いい加減バカバカしくなってしまった。



 それでも女優陣は健闘している。寺島しのぶ、小池栄子、石原さとみ、坂井真紀、室井滋、大楠道代、そして三田佳子という豪華キャストで、各々見せ場が用意されている。彼女たちを見ているだけで飽きないのだが、それが却って主人公の影の薄さと緊張感のなさを強調させてしまうことになり、結果としては愉快になれない。

 終盤、戦争への道をひた走る当時の世相を引き合いに出し、主人公の優柔不断ぶりとを対比させて何かを語ろうとしている様子が窺われるが、見事に取って付けたような感じである。本題である葉蔵の屈託さえ描けていないのに、余計なところに色目を使うなと言ってやりたい。要するに本作、文芸映画としては食い足りないし、アイドル映画としても中途半端、映像を楽しむにしても“この映画でなければならない”というセールスポイントにも欠ける、何とも感心しない出来に終わってしまった。
コメント
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