元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ゴールデンスランバー」

2010-02-07 06:54:06 | 映画の感想(か行)

 観ている間は退屈しないが、鑑賞後の印象は実に希薄。底の浅い映画である。仙台市の目抜き通りをパレード中の総理大臣が爆弾によって暗殺され、主人公がその犯人としてデッチ上げられるという設定からして噴飯ものだ。

 我が国で最後に首相が暗殺されたのはいつの時代だったか。少なくとも戦後では起こっていないし、未遂事件さえ思い付かない。そもそも、総理大臣が消される対象になるシチュエーションというのはどういうものか。よほどの世情不安定な時期か、総理自身が超過激な政策を打ち出して反対勢力の恨みを買う場合か、はたまた狂信的なテログループが暗躍しているケースぐらいしか考えられない。

 もちろん、頭のネジが緩んだ奴が“個人的に”暴挙に出る可能性はあるだろう。だが、本作で描かれるのは警察上層部をも巻き込んでの大規模な陰謀だ。これだけのシステマティックな仕掛けを用意しなければならない“事情”について、明示どころか暗示もしないのでは手落ちと言っても良い(申し訳程度に政敵の存在も描かれるが、当然それだけでは不十分である)。

 さらには、パレードが通るメインストリートに隣接する道路に、簡単に主人公の乗ったクルマが駐車出来てしまうというお目出度さや、街中白昼にショットガンをぶっ放す無神経な悪役とか、都合良く現れる助っ人や、これまた手際の良すぎる逃走手段の提供とか、まるでローランド・エメリッヒやマイケル・ベイの監督作並みの大味でぬるいプロットの洪水には呆れるしかない。

 もっとも、こういう突っ込みに対して“これはサスペンス映画ではなく、青春の思い出を描いたノスタルジックなドラマなのだ”という指摘もあることは予想できる。確かに主人公たち4人の現在と過去とを交互に映し出すあたりは、甘酸っぱい気分にはなってくる。小道具としてビートルズのナンバー“ゴールデンスランバー”を出してきて上手く機能させるあたりも、さすが伊坂幸太郎の原作だけはあると思う。

 ところが、それだけでは世の中をひっくり返すような事件を扱う本作のメイン・ストーリーを支えきれない。果たして、ラストは何とも煮え切らない、気勢の上がらない、カタルシスの得られない、微温的なものになってしまった。この部分が気に入らないというより、映画の前提がかくの如きものであるから、こんな決着の付け方しか思い付かなかったのであろう。

 中村義洋の演出はスムーズでテンポも良く、2時間飽きさせないだけの語り口を利かせていると思う。主演の堺雅人をはじめ吉岡秀隆、劇団ひとり等の顔ぶれは悪くない。敵役の香川照之や、主人公の父親に扮する伊東四朗も良い味を出している。そして通り魔役の濱田岳は儲け役だ。しかし、その程度だけでは骨太な題材を持て余している本作の有り様をカバーは出来ない。なお、ヒロイン役の竹内結子は外見は良いけど全然役に没入していない。彼女をはじめ、この年代の女優には人材が払底していることを改めて思い知った。
コメント
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