元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「アカシアの道」

2010-02-24 05:58:52 | 映画の感想(あ行)
 2001年作品。アルツハイマー症で急速にぼけ始めた母親と、介護する一人娘との葛藤を描く。近藤ようこの同名コミックの映画化で、脚色と監督は松岡錠司。同監督は感心しない映画もけっこう撮っているのだが、本作は彼の代表作の一つであると思う。

 題材から予想される教条主義的な展開は皆無。孤独な母親と、それ以上に孤独な娘の詳細かつ深遠な内面が描かれており、安易な建前論など入る隙がない。特に、小さなアパートの一室で誰にも助けを求めることができず自暴自棄に陥ってゆく娘の描き方は容赦がない。

 しかし、作者は決して登場人物を断罪したり見捨てたりはしない。誰にでも起こりうる状況の中の人物像を普遍的かつ肯定的スタンスで追うだけである。だからこそ、悲劇に終わりそうになるラスト近くの展開も全く無理がない。観ていて身につまされてしまう。母親を演じる渡辺美佐子と娘役の夏川結衣の演技も素晴らしく、見応えのある秀作だ。
コメント
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