元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「南京の基督」

2009-08-13 06:15:31 | 映画の感想(な行)
 (原題:南京的基督)95年香港作品。1920年代の南京を舞台にした、日本人作家と不治の病に冒された中国人の少女娼婦の悲恋を描いたメロドラマだ。私は無宗教だからかもしれないが、西洋人の抱くキリスト観を知識の上で学んでも、まるで実感がわかない。でもこの「南京の基督」でのキリスト教観にはピンとくる。

 心の支えとしてのキリスト。少し転じてヒロインの恋愛対象にもなるキリスト。日本人作家と金花とキリストの“三角関係”などという設定は、西欧映画ではマジに取り上げることはないだろう。キリスト教をいわばメロドラマの小道具としても使用してしまうアジア映画のスタンスを有り難く思ったりもする。

 さて、芥川龍之介の短編をトニー・オウが映画化した本作だが、何といってもヒロインの金花を演じる富田靖子につきる。可憐な中国人娼婦を見事に演じている。セリフは吹き替えだが、広東語を丸暗記して口の動きには不自然さゼロ。観る者の紅涙をしぼり出すほどの、いちずで愛すべきヒロイン像を具現化している。日本人作家・岡川に扮するレオン・カーファイもまったく無理がなく(国籍逆転キャスティングである)、岡川の友人を演じるトゥオ・ツォンホワもいい味出している。オウ監督の役者起用の的確さが光る。

 ラスト近く、線路の上で倒れて死ぬ金花と、風に飛ばされる帽子、賛美歌を歌いながらそのそばを歩く子供たちなど、いくぶん図式的でクサイ道具立てにもかかわらず納得して感動してしまうのは、単純に演出力の高さというしかない。撮影や音楽も特筆ものである。
コメント
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