元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「美味しんぼ」

2009-08-21 06:22:03 | 映画の感想(あ行)
 96年作品。失敗作と言うしかない出来だ。根本の部分から何か勘違いをしている。雁屋哲と花咲アキラによる、あまりにも有名なこの原作漫画を映画化する意味は何か。最も映画として描かねばならないのは何か。作者は少しも分かっちゃいない。

 “食”という人間最大の欲望、“料理”という究極の芸術がテーマになっている素材だから、まず映像化するべきものはエロティックなほどの美しい料理と名人芸とも言える調理法に決まっている。観ているだけでヨダレが出るような、空腹時には正視できないような、美味しそうな画面とそれを作るノウハウ。どうして美味しいのか、普通の調理法とどう違うのかという、理にかなったウンチク。「恋人たちの食卓」や「バベットの晩餐会」「金玉満堂/決戦! 炎の料理人」といった作品群に劣らないほどの壮麗な映像で観客を圧倒させることが第一。極端な話、ドラマはそのあと考えればいいのだ。

 ところが実際この映画の映像は実に貧弱である。“究極”VS“至高”の対決は劇中3回ほどあるが、“魚対決”“中華対決”という極めて曖昧なテーマしか用意されていない。TV「料理の鉄人」でも素材を絞って腕を競っていたのに、これでは対決にもならない。そして出てくる料理がちっとも美味しそうではない。だいたい料理にカメラが寄らず、ヘンに引いたロングショットが多いのだから呆れてしまう。あるのは白々しい講釈だけ。

 代わりにこの映画は何を描くかというと、原作には出てこない山岡の妹分(遠山景織子)をめぐる煮豆がどうのこうのというエピソード。樹木希林扮する山岡(佐藤浩市)の遠い親戚のオバサンが出てくるあたりで完全に映画が終わってしまった。これでは昔の大船松竹時代のお涙頂戴路線ではないか。山岡が出来た煮豆を売り歩き、それを物陰から雄山(三國連太郎)がのぞいているという展開もまったく意味不明。そして二人が“和解”したような結末をつけるなんて言語道断。

 栗田ゆう子に扮する羽田美智子が可愛かったのが唯一の救いだが、ベテランの職人監督である森崎東の作品としても最低の出来だろう。そしてBEAT BOYSとかいうグループによるエンディングに流れる軽薄な主題歌、唖然となるほどヒドい(-_-;)。
コメント
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