元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ボルト」

2009-08-15 06:27:07 | 映画の感想(は行)
 (原題:Bolt)発想が秀逸だ。そして、それをただの“思い付き”には終わらせない作劇の深さがある。連続テレビドラマの“主役”である犬のボルトは飼い主の少女ペニーを悪の組織から守るため、番組の中では毎回超能力を駆使して活躍する。ところがボルト自身はそれらを“現実”として認識している。つまり彼は自分をスーパードッグだと思い込んでいるのだ。

 彼が住むのはハリウッドのスタジオの中で、子犬の時に連れて来られて以来、そこから出たことはない。ところがニューヨークでの撮影中にロケバスから出て行ったペニーを“敵に誘拐された”と思ったボルトは、彼女を救うべく初めて“外の世界”に飛び出す。当然の事ながら番組を離れてしまえばスーパードッグでも何でもないただの犬であり、悲しいほどのギャップが彼を苛むのである。



 面白いのは、出演しているテレビ番組を現実のものだと信じているのはボルトだけで、他の動物たちは自らを“役者”であると認識していることだ。彼らは虚構と現実世界との見分けが付かないボルトを笑いものにするのだが、普通のペットとしての待遇さえ与えられずひたすら“仕事”に駆り出される自分たちの境遇に考えが及ばない。

 他人の勘違いは嘲笑するが、テメエの立場を深く考えたことがない者達と、たとえ見当外れではあっても義理と人情のために全力を尽くすこと、そのどちらに価値があるのかということだ。他者への冷笑は付和雷同しかできない烏合の衆にしか結びつかない。対してボルトの真摯な心は、すさんだ生活を送る野良猫のミトンズの心を溶かし、飼い殺しにされていたハムスターのライノの“心の目”を開かせる。そして終盤には番組での彼を超える“活躍”を現実世界で成し遂げてしまうのだ。

 三匹がニューヨークからハリウッドまでの道中、反目と和解を繰り返し、やがて強い絆で結ばれる過程は良質のロードムービーの体裁を保つ。途中で出くわすエピソードもドラマティックなものばかりで、それらをテンポ良く配置するバイロン・ハワードとクリス・ウィリアムズの演出は快調と言うしかない。



 バックの音楽はジョン・パウエルが担当しているが、それよりボルトの声を吹き替えるジョン・トラヴォルタとペニー役の若手シンガーのマイリー・サイラスの歌声が印象的。このあたりは日本語吹き替え版では味わえない興趣だ。今年の夏休み映画の中では観賞後の満足度は高い良作であり、冒頭の活劇シーンだけでも入場料のモトは取れる。

 なお、同時上映は「カーズ」の番外編である「メーターの東京レース」。短編ながらスピード感あふれる快作で、デタラメかつ愛嬌たっぷりな東京の描写も楽しい一品。本編も合わせて、お徳用感が実に大きい番組である。
コメント
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