(原題:THE DUCHESS )アカデミー賞を獲得した衣装デザインが要チェックだ。18世紀後半の英国の貴族社会で実際に着られていたと思われる、絢爛豪華なコスチュームの数々。特にヒロイン役のキーラ・ナイトレイが身につけるドレスは呆れるほど手が込んでいる。彼女が演じるジョージアナ・スペンサーは当時のファッション・リーダーだったらしく、ナイトレイも着こなしには実に気合いが入っている。
もちろん、登場人物全員の衣装にも抜かりはなく、ひょっとしたら出演者のギャラよりも衣装代の方が高かったのではないか(笑)。さらに、しっかりした時代考証に基づいた美術が観る者の目を奪う。名所・旧跡も盛りだくさんで、観た後は見栄えの良い装丁の美術全集に向き合ったような充実感を覚えた。
さて、肝心の映画の内容だが、残念ながらこれが大して面白くないのだ。監督・脚本のソウル・ディブはどうもマジメ過ぎる。貴族社会のドロドロとした裏側をもっとケレン味たっぷりに見せて欲しかった。ジョージアナが嫁ぐデヴォンジャー公爵(レイフ・ファインズ)は結婚してからも平気で浮気に走り、果てはジョージアナの友人であるエリザベス(ヘイリー・アトウェル)と同居してしまうのだ。これは何も公爵がどうしようもないヘタレ野郎だったからではない。それどころか彼は以前の交際相手との間に出来た娘を、母親の死後に引き取るという殊勝なこともやってのける度量の広い人物だ。
ただし、当時の貴族が結婚する目的は何かといえば、跡継ぎを作るためである。どんなに立派な家柄でも、後継者が居なければ“お家断絶”である。ジョージアナに男子が産まれないので、彼は仕方なく複数の女に手を出したのだ。ところが映画はそのあたりの葛藤を通り一遍に描いてしまう。情念も苦悩もなく、単にサッと流すのみ。これでは面白くない。
ジョージアナと彼女が惚れ込む若手政治家との仲も、紆余曲折あった割には印象は意外なほど淡白だ。もっと扇情的に捉えても良かったのではないか。故・ダイアナ妃はスペンサー家の出身で、彼女の境遇を劇中のジョージアナに重ね合わせているのは分かるのだが、それだけでは全編を引っ張る原動力にはならない。あと一つか二つ大きな山場が必要だったかと思う。
ナイトレイは相変わらず時代劇が似合う。ファインズも好演。ジョージアナの母親に扮するシャーロット・ランブリングもさすがの海千山千ぶりだが、ドラマ自体が何となく沈んだタッチに終始するために、あまり印象に残らないのが辛いところだ。