元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「パーフェクトワールド」

2009-05-03 06:50:04 | 映画の感想(は行)
 (原題:A Perfect World )93年作品。クリント・イーストウッドの監督作って本当に面白くない。おそらく彼は映画を撮る前に自分の頭の中で作品を完成させてしまうのだと思う。興味ある題材を見つけたとき、彼はとことん映画的アプローチを試みるのだろう。ただし、それは自分だけの観念的な世界での話である。そうやって対象を突き詰めたあと、やっと彼は製作にとりかかる。ところが、出来上がる映画は、彼の頭の中で完成してしまった完璧な作品の補完でしかないのだ。つまりは断片だけの映画。本来のテーマは納得できるように描かれないし、そうする必要もないと考えているのだろう(それは無意識にかもしれないが)。

 それでもアカデミー賞を取った「許されざる者」や硫黄島二部作はけっこう重いテーマを、いくぶん図式的ともいえる構成の中でわかりやすく丹念に描いていて、ナルホドと思ったが、この「パーフェクト・ワールド」はまさに悪しきイーストウッド映画の典型でしかない。

 ケヴィン・コスナー扮する脱獄囚は“オレは悪党ではない、しかし、根っからの善人でもない”と思わせぶりに語る。たぶん作者は彼を、失われたフロンティア・スピリットを追い求める(実はそんなものはないことは百も承知)、遅れてきた悲しいヒーローか何かと思っているのだろう。彼にとっての“完璧な世界”とは、実は遠いアラスカではなくて、人質の少年と心を通わせた緑の草原であった・・・・、などという一見崇高なテーマとハッタリめいた構図が頭の中で完成してしまったイーストウッドにとって、あとの映画づくりは雰囲気だけに終わろうと知ったことではなかった。

 単に優柔不断な悪人の、意味不明の繰り言をさも重大なことのように並べただけの、まるで要領を得ない作品がここにはある。プロットは大甘。イーストウッド扮する署長も、ローラ・ダーンの心理学者も、ハイテクの粋を集めたらしい警察の専用車も、何しに出てきたのか全然わからない。最後の扱いも在り来たりでで、少しは芸を見せてほしかった。ただ、子役だけは立派で、退屈な展開をなんとか救っていたと思う。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする