元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「檸檬のころ」

2007-05-18 06:50:59 | 映画の感想(ら行)

 栃木県の田舎町を舞台に、進路や恋愛に悩む高校生群像を描く、豊島ミホによる同名小説の映画化だが、メイン・プロットよりも脇のストーリーの方が遙かに面白いという一種困った作品だ。

 優等生で学園のマドンナでもあるヒロインと、彼女が中学生時代に付き合っていた野球部員(石田法嗣)、そして新たにモーションをかけてくるこれまた野球部のピッチャー(柄本佑)との“疑似三角関係”みたいな話が中心になるが、これがつまらない。

 メリハリのない描写が効果希薄なワンシーン・ワンカット技法により微温的に続くだけである。筋書きも陳腐極まりない。主役の榮倉奈々が決定的にダメで、整ったルックスはしているが表情に乏しく、演技勘が鈍い。要するに見ていて退屈なのだ。

 対して、音楽ライターを密かに目指すロックおたくの女生徒と、彼女と意気投合する軽音楽部員(林直次郎)との顛末を描いたサブ・ストーリーは見応えがある。いつも“アタシは皆とは違うのダ”と、孤高な態度を決め込んでいた彼女が、普段軽く見ていた後輩に簡単に出し抜かれたばかりか、意識している男子生徒からも“単なる友達”扱いされ、いきなり“素の自分”を見せつけられて立ち往生してしまうくだりは結構辛口のリアリズムだ。

 ただし彼女の偉いところは、その“本当の自分”を受け入れてゼロから再出発することを決意する点である。演じる谷村美月が実に良い。とびきりの美少女ではないけど、表情豊かで演技の底が深い。陽性のキャラクターにキビキビした身体の動きで、見ていて本当に楽しいのだ。十代の俳優の中では屈指の逸材だと思う。

 監督はこれが長編デビューとなる岩田ユキで、手堅く行こうとしているのは分かるが、メイン・ストーリーは冗長に過ぎる。ただし基本的な技量は備わっていると思うので、今後に期待したい。

 舞台になる地方都市の風情は捨てがたい。映像は美しく、その切り取り方も非凡だ。しかし、終盤のヒロインの旅立ちの場面は、設定が春先なのに映像は秋である。何か意味があるのかもしれないが、普通に考えればこれは“手落ち”だろう。
コメント (2)
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