(原題:V for Vendetta)最近は「シリアナ」だの「ミュンヘン」だのといったテロリズムを複眼的に考察するシビアな映画が目立つ中で、こうも脳天気で単純に過ぎるシャシンがのうのうと罷り通っていること自体、笑うしかない。
しかしこれは第三次大戦後に独裁国家となったイギリスを舞台にしたグラフィック・ノベルが原作のダークヒーローもの。いわゆる“時事ネタ映画”ではない。そのあたりを勘案して評価すべき・・・・だということは分かってはいるが、単なる娯楽作にしてもパッとしない出来だ。
まず、展開がかったるい。不要なエピソードが多すぎ。そして肝心のアクションシーンも盛り上がるのは終盤の一瞬だけだ。要するに“思い切り”が悪いのだろう。
どう考えてもお手軽活劇編にしかならない題材を“いや、オレは社会派っぽいところもあるから、こういう切り口も出来る”とばかりに、それらしいモチーフを勿体ぶった態度で並べようとした時点で“終わって”いる。特に主人公の“V”(ヒューゴ・ウィービング)のテーマにチャイコフスキーの「大序曲1812年」を使っているあたりは赤面ものだ。安っぽいイデオロギーで娯楽映画を語るなと言いたい。ナタリー・ポートマンの熱演もむなしい。
なお、劇中の独裁国家のモデルはサッチャリズム全盛時の超保守化したイギリスらしいが、もしもそれが事実なら、作者の認識は非常に甘いと言わざるを得ない。なぜならサッチャーの政策イコール独裁指向ではなく、あれは元々は経済政策に過ぎないからである。