Weblog喫茶 モンブラン

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びりっかすの子ねこ

2007-11-22 17:57:23 | 秘密の本棚

モンブランへご来店の皆様、こんばんは。

今この瞬間にも、世界中で新しく生まれ続けているたくさんの本。
日本語の本だって、一生かかっても全部は読みきれません。
私が一度も読むことのないまま終わってしまう本のほうが、何千倍もあることでしょう。

過ぎ去ってしまった子供時代や、それなりに苦悩していたティーンエイジャーの頃、出会えればよかっただろうについにめぐり会えなかった本も、そりゃーたくさんあるはず。

でも、時々ひょっこりと、本の神様が膨大なコレクションの中から、私に贈り物をくれることがあります。

それは神田の大きな書店をうろついている時だったり、たまに寄った古本屋だったり。
この本もずいぶん前に、そんな古本屋の店先のワゴンの中で、砂ぼこりをかぶっていた贈り物でした。

マインダート・ディヤング作「びりっかすの子ねこ」。
オランダで生まれ、8歳でアメリカに移住して、作家になった人です。

犬屋さんの納屋の奥、犬たちが入ったおりだらけのなかで、6ぴきのきょうだいのあとから7番目の最後に生まれた、びりっかすの子ねこ。
にいさんたちに押されて、おかあさんのおちちももらえずに、いつもはらぺこ、ふるえています。

ある日、親子の行列についていこうとして、びりっかすの子ねこは、としよりいぬのおりの中に落っこちてしまい、それがきっかけで、目も見えず耳も聞こえない、鼻もろくにきかないとしよりいぬと、心を通わせ一緒に暮らすようになりました。

ところが、ある日ふとしたことで子ねこは外に閉め出されてしまいます。
戻れないことを知った子ねこは、意を決して暗闇の中へ旅立ちます。
そして一晩の間に、七軒の家でさまざまな経験をして、最後には意外な形でしあわせをつかむのです。

子ねこの足で行けるだけの、わずか家七軒の小さな世界。
けれども、そこには実にさまざまな人々が住んでいます。
きっと現実の世界の比喩なんでしょうね。
つらい思いもしたけれど、世界の端っこにしあわせは待っていてくれました。

ジム・マクマラン氏の素朴な挿絵と、中村妙子氏の、まるで歌のようなリズムの良いすぐれた日本語訳は、こどもに読んであげるのにぴったりです。

私が病気になる前、まだ小さかったしゅんけいに、この本を読んであげたことを思い出しました。
毎日少しずつ読んであげていたのですが、いつも「もっと読んで」とねだられました。

びりっかすだって、きっとしあわせは、どこかで待っている。
心が素直に温まる、ずっと大切にしたい本です。