九鬼周造著 『 巴里心景 』

2012-12-31 | 日記

昭和17年11月20日発行 甲鳥書林刊。この本は著者のパリ滞在時の詩と短歌のアンソロジーになっている。全体が一つのロマンである。 「 タンゴ 」 という詩を紹介する。

         ともし灯よ

         魂はかがやきを求めず、

         まばゆき光を消して

         闇となれ。

         

         巴里の空の月よ

         窓よりひそかに入りて

         静かに青く

         ロココの広間を照らせ。

 

         黄色の薔薇よ

         人はすぎし恋を夢む、

         いやたかく薫れ。

         白髪の楽師よ

         南の国のかの古き

         ヴィオロンを執りて

         ( 悲哀のタンゴを ) 弾け。  (以下略)

「 人はすぎし 」 日を夢む。大晦日の夜ともなれば一層、 「 すぎし 」 日々が懐かしい。追憶に相応しい音楽は、悲哀に満ちた 「 タンゴ 」 のリズムである。大雪にもメゲズに、数時間もすると新しい年がやって来る。