アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

巨漢マタチッチの思い出

2016-11-27 20:00:00 | 音楽/芸術

ロヴォロ・フォン・マタチッチ(1899-1985)と言えば、ブルックナー愛聴家ならば一度は耳にした事のある指揮者。最近部屋の整理をしたところ、何年もお蔵入りのDVDが発掘できたので、また一本ずつ見返している。その中に超ド級の名演として世に知れ渡った、84年にN響を振ったマタチッチのブルックナーがあり、当時を懐かしく思い出したので、ここで書き留めておきたい。

今から32年前の1984年といえば、アントンKにとっても波瀾万丈な時期であり、公私共々落ち着かない時期であった。学生から社会人になり、生活が様変わりした時期でもあるのだが、趣味の方は相変わらずで、朝比奈隆を中心としたコンサートには、今より数倍駆けつけていた血気盛んな時代。そして友人の影響もあってマーラーもかなり聴き込んでいた時代でもあり、ほぼ毎日マーラーづけの日々を送っていた頃・・・結局、後にマーラーよりブルックナーをアントンKはとってしまうが(この辺のところは、いづれ書き留めておかないといけない!)、これらは、90年代のマーラーブームと呼ばれる前の時代なのである。

アントンKは、朝比奈隆によって開花したブルックナーであったが、別な意味での立役者マタチッチを忘れる訳にはいかない。当時のLPレコードで、チェコ・フィルを振った第5では、どこか腑に落ちなかった演奏だったが、80年の来日時、NHK響を振った第8では、完全にノックアウトされ、ブルックナーには外せない指揮者に上りつめたのである。この時は。FMでの実況だったので、その輪郭しか諭されなかった。しかしこのDVDにも成っている84年来日時の第8の演奏は、運よく実演に遭遇でき、音の悪いホールでも、カテドラルで聴いた時のような感動を覚えたのだった。

それにしても、今このビデオを見てもとてつもなくでかいブルックナー演奏だ。細かな傷にはめもくれず、強引にオケをドライブしていき、大変素朴に響くが豪快な音色という、他では聴けない解釈のブルックナーと言えるだろう。全く違和感がないのは、マタチッチが音楽の本質を掴んでいるからだろうか。まだ駆け出しのアントンKにも、当時これがブルックナーの音という響きの法悦とでも言おうか、納得していまう何かが襲いかかってきていたのだと思う。

タバコに火を自分で着けられなかったり、靴ひもを自分で結べなかったマタチッチだが、彼の弾くピアノは素晴らしかったらしい。指が10本もあるからと言って、指揮棒を一切持たなかったマタチッチだが、現代にはこういった個性的な音楽の塊のような指揮者は皆無になってしまい寂しさを覚える。