風雅遁走!(ふうがとんそう)

引っ越し版!フーガは遁走曲と訳される。いったい何処へ逃げると言うのか? また、風雅は詩歌の道のことであるという。

ウバタマが垣間見せるたましいに触れるゆめ

2004-11-20 18:09:27 | ブンブク文学/茶をわかせ!
oyako16日にわが最寄り駅の駅前の書店に、2冊顔を並べてどれも平積みされているのを発見した時は、我がことのように嬉しくなった。2冊同時出版という売れっ子みたいな快挙を成し遂げたのは、友人でもある作家にしてアーティストというマルチな才能を持つAKIRAこと杉山明氏である。

その2冊とは、長いこと絶版(出版社が倒産したらしい)だった『COTTON100%』(同文書院、1998。AKIRAの処女作。今回は現代書林)と、新刊書き下ろし『神の肉テオナナカトル』(めるくまーる)である。
ペルー、アマゾンを舞台にした前作『アヤワスカ!』(講談社2001)が南米ものだとしたら、新作『神の肉テオナナカトル』は中米ものな訳だが(舞台はメキシコ)、スペインに絵画留学していてスペイン語も話すAKIRAにはスペイン語圏は必然のように彼自身をそのフトコロに呼び寄せた。ボクも行っていた2000年の「いのちのまつり」でAKIRAは、ウィチョル族のセレモニーに参加する。「虹の村」で開かれたそのセレモニーに、まつりで店(チャイ屋)を開いていたボクは行くことができなかった。その出会いと導きがAKIRAをさらにシャーマンと出会い、そのイニシエーションを体験するというその後の旅へさらに駆り立てる。
AKIRAの旅は、まるで人類の意識の深層を見て歩くような旅で、それこそ変性意識をともなうトリップでもある。その過程の中で、AKIRAはウィチョル族のネアリカ(色とりどりの毛糸をキャンバスに直接はって描く)の手法をも、己のものとしていく。

新作の『神の肉テオナナカトル』は、いわば『アヤワスカ!』と血をわけた姉妹のような作品である。ただ、今回はインディオや先住民よりもかって高度な文明と天文学を誇ったマヤ文明の叡智の中をくぐり抜けながらの探求の旅なのだ。作品の中には、最新のマヤ学の知見がちりばめられている。このような点では、フィクションなのだが、旅そのものの進み具合は、おそらくAKIRA自身の実際の旅を元にしたノンフィクションなのだろう。マヤ暦(神聖暦。一年を13月にわけるため「13の月の暦」とも呼ばれている)で日常生活もしているらしいAKIRAには、必然のようにマヤ暦が終わる日である(!)2012年12月22日の世界終末の問題がはりついている。その日付けは、マヤ暦が終わるとともに、人類が、いや地球が滅びる日と予言された日付けだと言われている。ただ、この終末へのはっきりとした言明はない。
今回の新作で、読者としてのボクが不満があるとしたら、それはただひとつの点。作中に『ポップ・ヴフ』(奇跡的に教会に残されたマヤの神話)への言及がないという点だけだ。マヤ学の知見は、『ポップ・ヴフ』から解かれていると言ってもいいくらいだからである(実松克義.著『マヤ文明聖なる時間の書』、『マヤ文明新たなる真実』など。『ポップ・ヴフ』は一般には『ポポル・ヴフ』と表記されている)。
『神の肉テオナナカトル』の意味するものは、ペヨーテのことだ。このサボテンは、含有するメスカリンによってひとに幻覚作用をひきおこす。AKIRAは、神の肉ペヨーテ(テオナナカトル)を食して黄泉に降りて行くように、死んだ父親と再会しそして和解するのだ。

今回の作品は、ひとの来歴、自分のルーツ探し、探求をテーマにしたものだ。自分探しの探求の果ては、親とのひいては自分との和解だとAKIRAは説いているようである。その意味では、幼年時代からの半自伝的な物語ともいえる。ひとは、長い旅の果てに、あるいは人生の果てにもっとも自分に近いものと向き合い和解するのだと。そう、そのためにもひとは悲しいことに、憎んで憎んで憎み続けなければならないのだ。

(とすれば、それはボクにも必要な体験かも知れない。ボクもまたもう死んで二十年以上になる父と真に和解したとは言えないからだ。これは、母がその先祖からの石の墓に入れず、樹木葬を選択すると言う葬り方の遠因になっている。むしろ、それはとても良かった。墓の問題で苦しみ、悩んだからこそボクは自分自身もそのように葬られたい「樹木葬」に出会ったのだから……)

(巻頭のイラストはAKIRAによるプチ・ネアリカ作品「親子のカムイ」。『神の肉テオナナカトル』の表紙絵に使用されている。タイトルから言っても、今回の作品のテーマを語っているようなネアリカ作品だ。画像をクリックすれば大きく見ることができます)

「親子のカムイ」(c)AKIRA


最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
この書評を書いてアップした日、AKIRAのこの二冊の... (フーゲツのJUN)
2004-11-21 10:42:17
この書評を書いてアップした日、AKIRAのこの二冊の著作の出版記念パーティとネアリカ展が渋谷で行われました。行きたかったのですが、予定が重なっていました。きっと、盛り上がっただろうなぁ!
AKIRA!行けなくてゴメン。
返信する

コメントを投稿