風雅遁走!(ふうがとんそう)

引っ越し版!フーガは遁走曲と訳される。いったい何処へ逃げると言うのか? また、風雅は詩歌の道のことであるという。

光速疾走者の悲哀、または精神のリレー/埴谷雄高(1)

2009-07-05 00:21:32 | ブンブク文学/茶をわかせ!
(まず 初めに これは 「詩」 と言うよりも 「散文」 のやうなものだ
 と言うことを 承知しておいて もらいたい)
  ………………………………………
??生と死と。Pfui!

魔の山の影を眺めよ。
 悪意と深淵のあいだに彷徨いつつ
  宇宙のごとく
 私語する死霊達。

   (「不合理ゆえに吾信ず」)
  ………………………………………
思い浮かべて欲しい
 それは昭和7年(1932年) まだ22歳の 美しい面立ち(おもだち)をした青年が
  マルキストとして 共産党の非合法地下活動を していた
 仲間は 次々と 特高警察の手に おち 検挙され
  小林多喜二の やうに 取調室で 虐殺された
 また 共産党の内部でも スパイ摘発に明け暮れ
  疑心暗鬼の中で 査問を受けた仲間が リンチを受け 死んでいった
   どこか 1970年代はじめと リンクする 状況だった

帝国の植民地であった 台湾 生れの 般若豊(はんにゃゆたか)という
 名前のその青年は
あるとき 治安維持法違反 不敬罪で 起訴され 豊多摩刑務所に収監される
 友人宅を 訪れた際 特高警察を 家族と間違え
  そのまま うむを言わさず 逮捕されたのだ
収監されていた 1年半あまりの時間
 青年は 刑務所内の 壁にひとり向かい
  黒い染みと 対面し 独白し 夢想していた

??薔薇、屈辱、自同律??つづめて言えば俺はこれだけ。

出獄し 吉祥寺に居をかまえる
 それから 60年余 住み続ける 井之頭公園近くの 家だ

青年は 「般若」の面を とって ハニヤユタカ という
 文学者になる

豊多摩刑務所内で 壁に向かって 夢想した
壮大な <妄想>を 「小説」という
 文学装置の 中へ 解き放った

それまで 誰も構想しなかった
 前人未到の 「存在」を問う 文学だった 
 ……………………………………………

アフォリズムは 警世の短文 ことわざような 形式である
 一般には 処世術の 警告のようなものが 書かれ
 「格言」「箴言」「警句」と 称される
たとえば 「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」(『歎異抄』)の
 ようなものだ
 交通標語のようなものも そもそもはそのような
アフォリズムの 形式を 七五調で 真似たものと言える
 また 政治的スローガンも アフォリズムの応用だったろう
  そう プロパガンダに 使われる政治的な
   それゆえ 洗脳的な コピーライトだ
だが その黒塗りの190×190㎜の 正方形をした函には
 ラテン語で 「Credo,quia absurdum.」と
  印字されてある
と そのラテン語は 「不合理ゆえに吾信ず」という書名の
 ラテン語訳であるらしい
<謎>は ほぼその作家の 処女作と言ってよい作品から 仕掛けられてある
 その 詩集のやうな アフォリズム集の 第1句は かう始まる

「賓辞の魔力について苦しみ悩んだあげく、私は、或る
  不思議へ近づいてゆく自身を 仄かに感じた。」


「賓辞(ヒンジ)の魔力」??ヒンジとは 主語(主辞)に対する
 述語のような 客辞 ことばである
 大事なお客様を 主賓 貴賓と言う あれだ

それは かう言い換えられる
「??私が 《自同律の不快》と呼んでいたもの、
  それをいまは語るべきか。」


ふいに 唐突に それは かう続く
「??さて、自然は自然において衰頽(すいたい)
  することはあるまい。」


これらの アフォリズムは 刑務所内の 独房の壁と 長い時間 
 ダルマ法師のやうに 面壁することによって 編み出されたものである
そして それらの 悪魔的とも思える 警句を 書き連ねることで
 美しい横顔をもつ 般若豊青年は 転向し 文学的出発を とげた
  とはいえ その 内容は ドストエフスキーのやうに 長大で
   シュテネル(シュティルナー)の やうに 哲学的だった
この 奇妙な 超絶した ポジションを 戦後文学に しめる
 作家は しばしば このようなことばを 吐いた
 革命家は しばしば 幻視者であり 幻視者は 永久革命家である と。
 埴谷雄高のこの ことばは <革命>を
  権力奪取の政治革命以外のものへと 解き放ったものだった!
   アルチュール・ランボーは 同時に カール・マルクスでもある
   と 断言するような 驚きに みちた ことばだったが
    60年代のなかば 革命中国で 毛沢東自らが 指導する
   「文化大革命」がおこったとき 埴谷雄高の 正しさは 証明された



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