風雅遁走!(ふうがとんそう)

引っ越し版!フーガは遁走曲と訳される。いったい何処へ逃げると言うのか? また、風雅は詩歌の道のことであるという。

詩人とたまゆらの女

2005-07-14 22:57:27 | シネマに溺れる
zhouyus_train
『たまゆらの女(ひと)』
原題:周漁的火車(ZHOU YU'S TRAIN)
監督:スン・チョウ
2003年中国映画
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仙湖の 美しい 青磁
君の 肌のように 柔らかく
僕の 仙湖が あふれる
水を 満々と たたえて

これがいい詩なのかどうかわからないが、少なくとも周漁(チョウユウ)というおんなのこころはとらえてしまったらしい。チョウユウは、それから延々と汽車に週2回ものって重慶までその詩人チェンチンのもとに通いだすのである。片道10時間の遠距離恋愛中国版。チョウユウは建水に住み白磁の絵付けをやっている女性だ。恋愛に対しては一途に、自分の情熱をストレートにぶつける銜えタバコもさまになる先進的な女性らしい。
そこに汽車の中で彼女にひと目惚れしてしまう獣医チャンがからむ。チャンは強引な迫り方で、チョウユウの絵付けした白磁を手に入れようとするが、チョウユウは床に投げ捨てて割ってしまう。男の意のままにはならないというチョウユウの意志の強さ、気の強さがうかがわれる。

しかし、人員整理で遠くチベットへ派遣教師として赴任する恋人の詩人チェンチンの不在のその家に、チョウユウは通い出すのである。まるで、詩人の不在を確かめるためだけに、汽車にゆられてその街、重慶に通うことが自分の存在確認であるかのように……。

そして、重慶(チョンチン)には海のような河(長江)がある。その河を渡し船で渡ってケーブルカーに乗り、ツタの絡まる古い洋館風の家に詩人チェンチンは住んでいたのだった。ここは四川省の第2の都会である。
ヒロインにコン・リー。官能的なメロドラマ仕立てで中国も、このような映画を撮るようになったのかと一面では感心する。ベトナムに近い建水が一方の舞台だが、そのためかどこかフランス映画風のつくり。これは詩人チェンチンを演じたレオン・カーファイが『愛人・ラマン』に出演した俳優ということもあるのかもしれない。しかし、映像は美しい。コン・リーのスカートのすそをひらめかせた艶やかな演技。実際、この女優とこのあと輩出される監督たちによって中国映画は世界水準にまで達するような名作を生み出してきた(『紅いコーリャン』チャン・イーモウ監督デビュー作1987年、『菊豆』1990年、『秋菊の物語』1992年、『さらば、わが愛 覇王別姫』1993年、『活きる』1994年、『上海ルージュ』1995年、『花の影(風月)』1996年、『きれいなおかあさん』1999年)。

物語的にはやや破綻をしており、コン・リーの二役に混乱はあれど意味はないと思うのだが、筋をバラバラにしての展開はもうすこし整理が必要だっただろう。編集に難があるが、それもまたモダーンな要素と言えば言える。劇中で多用される列車の走行シーン。そのあいまあいまにチョウユウが巫女のように、白い長い袖をつけて舞い踊る不思議なシーンが挿入されている。ともかくも、中国の田園風景が美しく、それもまた「あると言えばある。ないと言えばない」夢幻の存在のような人生をあらわそうとしたのかもしれない。

仙湖の 美しい 青磁/君の 肌のように 柔らかく/僕の 仙湖が あふれる/水を 満々と たたえて

この冒頭に引用した詩の中にも、水=愛という隠喩がふくまれているが、この「仙湖」それ自体はどうやら存在しない湖のようである。チョウユウはチャンとともに、その湖を探すが、そんな湖はなかった。

ちなみに邦題の「たまゆら」は「かすかな、ほのかな」という意味で、この映画にふさわしくないのではと、最初思っていたが(むしろ頼り無げなのは詩人の方である(笑))、意志の強い女チョウユウ(コン・リー)も詩人のチェンチンから見たら、夢幻(ゆめまぼろし)に生きている女で、そのためかチェンチンははるかチベットの赴任先でもチョウユウそっくりのチベタンの女性を恋人(現地妻?コン・リーふた役)にするところにも現れているかも知れない。
だから、詩人チェンチンは存在しない湖「仙湖」にチョウユウを(いや、女性をと言うべきか)たとえたのである。「仙湖」は「僕(詩人)の」内側にしかない。水(愛)を満々とたたえて……。あふれでる水こそが、チョウユウいや女性へ向けられた詩人の愛なのだ(劇中、長江のほとりで詩人は「ひとり」であることの必要を説き、恋人チョウユウに「私は必要じゃないの!」とたしなめられる)。

劇中、ボクにとってはつらい場面があった。チョウユウは惚れ込んだ詩人チェンチンのために会場まで借り、チラシまで作って重慶で「詩人チェンチン朗読会」を催すのだが、客はひとりも入らない。ポエトリー・リィディングのイベントを毎月やっているボクには、ああ、中国も同じなんだととてもこころが痛かった(笑)。
(評価:★★★)



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